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30 第 1 章 臨床検査総論臨床検査の標準化・精度保証・基準範囲 A 標準化 1 クオリティマネジメントシステム 臨床検査における精度管理は,工業生産における品質管理に由来しており,日常検査法で得られる測定値の精密さと正確さの管理は,狭義の精度管理(quality control;QC)に該当する.一方,臨床検査領域におけるクオリティマネジメントシステム(quality man-agement system;QMS)は,検査結果の信頼性と,診断と治療に欠かせない臨床的有用性を確保・向上するための体系的な手段である.QMSは,検査法の精度管理だけでなく,検体の採取・前処理・保存等の分析前段階や,検査結果の解釈や報告等の分析後段階における変動要因や過誤の防止,生理的変動や基準範囲等,臨床検査に関するすべてのプロセスを対象とする. 臨床検査における精度管理の概念は以下のように分類される. ・ 内部精度管理(internal quality control;IQC):検査室内で行う測定法の精密さと正確さの管理 ・ 外部精度評価(external quality assessment;EQA):検査室間で行う測定法の精度比較(技能試験) ・ 総合的精度管理(total quality control;TQC):分析過程の前後段階を含めた総合的な精度管理 ・クオリティマネジメント(QM):患者中心の医療を実現するためには,患者の安全性の確保と迅速かつ信頼性の高いデータ提供が必要である.この目標を達成するためには,医療環境の特性,検査部門の運営,技術的な管理,スタッフの教育とトレーニング,マネジメント事項を考慮した総合的な管理,すなわちクオリティマネジメント(QM)によって支えられるクオリティマネジメントシステム(QMS)の構築が求められる(図1—1).以下に,QMの考え方について示す. 検査項目の選択と依頼のプロセスは,総合病院,専門病院,地域医療センター等,施設の特性によって異なる.その差異を理解し,各施設のニーズに応じたサービスを提供することが重要である. 技術的な管理では,検査手順書の作成,検体の取り扱い,妥当性の確認,および狭義のQCとしてIQCとEQAに重点を置く.TQCの段階では,検体の採取から検査結果の報告までが行われ,精度保証(quality assurance:QA)では,質の高い検査結果を得るためにスタッフの教育とトレーニングが不可欠である.QMの対象は,検査項目や方法の選択,依頼から始まり,検体採取,検査受付,内部・外部精度管理,検査報告,検査値の解釈に至るまで,一連のプロセスが含まれる.さらにQMでは,人的組織の品質方針,文書管理,施設や環境,機器・試薬・消耗品の管理,安全性,情報システム,苦情処理,内部監査を含めて品質を保証する.良質な検査室運営(GLP)もQMには不可欠であり,予算,人材,記録,安全等,検査室運営に関わる様々な要因を含む総合的QMによってQMSが支えられている.また,技能試験(proficiency testing)は,異なる試験所間比較による精度評価で,検査の品質を継続的に向上させる目的で実施される.これらより,検査結果のI

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