Introduction 患者から得られた材料の病理形態学的な解析を基盤とした検査を病理検査と総称している.病理検査では,組織および細胞に生じる器質的あるいは機能的な変化を直接観察することができるので,その臨床的な意義は大きい.病理検査には,生検や手術材料の組織に対する組織学的検査(組織診)や,液状検体や病巣部からの穿刺,擦過や捺印で得られる細胞に対する細胞学的検査(細胞診)および死後のご遺体に対する病理解剖(剖検)がある. 病理検査には従来から用いられてきた形態学的手法に加えて,免疫組織化学や遺伝子・染色体検査(分子病理学検査)が次々と取り入れられており,それらに基づいた客観的で再現性のある診断とコンパニオン診断に基づいた最適な治療を行うことが可能となってきている.例えば肺癌においては組織型決定にとどまらず,治療法選択のため遺伝子検査が必須となっている.また造血器腫瘍や軟部腫瘍では組織型決定に際して免疫組織化学に加え,遺伝子・染色体検査が多くの場面で重要な役割を担っている.細胞診の領域においても細胞検体処理法の進歩に伴い,免疫細胞化学や分子病理学検査の導入がはかられている. 本章では組織学的検査と細胞学的検査について,検査材料の採取方法から固定法,標本作製法,染色法,分子病理学検査等,臨床上重要な事項を中心に解説する.(太田浩良)組織学的検査(組織診) 組織学的検査は,以下に述べるような順序で行われる(図13‒1). 1 検査材料の採取 病理組織学的検査の対象となる材料には,試験切除(生検,バイオプシー;biopsy),手術的切除によるもの,さらに剖検あるいは動物実験で得られたもの等がある.最近では組織学的検査材料について単に組織検査を行うだけでなく,生化学的な分析,組織培養,細菌・ウイルス培養,染色体・遺伝子検査等の各種の検査を併せて行う必要性が増している.いったん固定してしまうと,これらの検査の多くが実施できなくなるので,組織の採取前に臨床医と病理医,さらには担当の技師が十分打ち合わせをして,材料の処理方法についI病理検査13
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