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Introduction 臨床的判断と検査技術は不可分である.臨床から離れては精確度が保証されたデータの提供は不可能であり,また,技術・方法論を離れてはデータの臨床的意味付けも難しくなる.現に,その不可分性が検査技術を向上させ,検査データの臨床的意味付けを深めてきた.古典的な化学的分析法から酵素学的分析法への移行はその最たる例である.かつては非特異反応が多く精密性に欠けるJaffé反応を応用した方法が主流であったクレアチニンの測定は,酵素法の普及により格段と精度が向上した.それに伴い,より精密な腎機能評価が可能となり,とりわけCKDの診療においては,その病期を的確にとらえ病期に合った医療の提供を可能にし,不可逆的な当該疾患の進行を遅らせることにつながっている. 臨床化学検査領域は最も自動化と標準化が進んだ領域である.主要な項目についてはすでに十分な精度を達成しているという考えもある.異論ないところであるが,それでもまだ改善の余地は残されているのではなかろうか.実際,完成されたと思えるような検査技術であっても今もなお地道に改良が続けられている. 検査の実務者はその責を果たしていくために,常に最新情報に追随して自らの知識と技術をアップデートしなければならない.しかし,常に古い知識・技術は新しいものに淘汰されていくとは限らない.血清コレステロールの測定にAbell—Kendall法を用いている施設は皆無であるが,本法は米国CDCが標準的測定法としているように,血清コレステロール測定の基盤的な測定法で在り続けている.また,古い技術の欠点とその改善の過程を経て蓄積してきたノウハウもさらなるイノベーションには欠かせない.Jaffé反応の非特異反応があったからこそクレアチニン測定法の特異性を向上させることができたと言っても過言ではない. ほとんどの検査項目がいまだに精度を狂わせる技術・方法論的な問題を少なからず抱えている.そもそもどんなに確立された検査項目であっても,検査の全工程が適切に行われなければ十分な精度を維持できない.サンプリング,分析,データの臨床的妥当性の評価,そしてデータ報告に至る全過程で新旧様々な知識,技術を駆使しなければならない.とりわけデータの精度は,軽度の異常値,境界値を判読するときに大きな問題となる.もう十分だと思われていた検査精度を少し改善させることで臨床的判断力が飛躍的に向上する可能性があるということを忘れずに,日常検査に向き合わなければならない.(山内一由)臨床化学検査6

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