05055T
10/23

308 第 4 章 血球検査造血器腫瘍の臨床検査 A 造血器腫瘍のWHO分類 1 造血器腫瘍の分類の変遷 造血器腫瘍は造血幹細胞から派生する種々の分化段階の血液細胞の腫瘍であり,白血病とリンパ腫に大別される.造血器腫瘍の分類は,以前は形態学に基づく分類が主流であったが,2000年代以降,臨床病態や免疫学的所見,分子遺伝学的所見を合わせたWHO分類にシフトしている.WHO分類の書籍は“Blue Book”と呼ばれ,2024年8月に刊行された第5版1)が最新版である.本項では疾患分類の変遷について概説する. 急性白血病や骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndromes;MDS)では,長らくFrench—American—British(FAB)分類(1976~1991年にかけて改訂)2)が用いられてきた(表4—26,図4—51,52).形態学中心の分類で簡便であることから,急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia;AML)については現在も活用されている.リンパ腫ではRap-paport分類,Kiel分類等を経て,Revised European American Lymphoma(REAL)分類(1994年)3)が用いられていた.FAB分類やREAL分類の成功・普及を受けて,WHO分類の出版元(International Agency for Research on Cancer;IARC)が米国の血液病理学会(Society for Hematopathology;SH)に執筆を依頼し,SHが欧州血液病理学会(European Association for Haematopathology;EA4HP)と共同で執筆したのが,WHO分類第3版(2001年)4)である.SH/EA4HPの共同執筆により,2008年には第4版5)が,2016~2017年には改訂第4版6)が刊行され,わが国でも広く用いられている. その後,WHO分類の最新版として第5版が発行されることとなったが,IARCが方針を変更してSH/EA4HPへの編集・執筆依頼を中止し,新たな編集・執筆者が選出された.WHO分類第5版の概要は2022年にLeukemia誌に掲載され7)8),オンライン版がリリースされた後9),2024年8月には書籍版1)が刊行された.一方で,改訂第4版まで編集・執筆を担当していたSH/EA4HPメンバーは,国際コンセンサス分類(International Consensus Classification;ICC)と呼ばれる別分類を提唱し,2022年にBlood誌上で発表した(ICC 2022)10)11).したがって,造血器腫瘍の新たな分類は2種類存在することになる. WHO分類とICCはいずれ統合する方向で動く予定とのことで,WHO分類第6版以降は統合される可能性がある.しかし,それまでは2つの分類が併存する見込みであり,日常業務の中で,新たな疾患分類をどのように取り入れるのかは課題の1つと考えられる.なお,WHO分類第5版では,骨髄異形成症候群が骨髄異形成腫瘍に変更されたが(⇒p318:表4—28参照),現在も骨髄異形成症候群と呼ぶことが多く,今後さらなる変更も考えられるため,本書第36版では骨髄異形成症候群(MDS)を使用する. 2 造血器腫瘍の新たな分類の活用 WHO分類第5版およびICC 2022のいずれも,病型分類や診断基準において遺伝子異常との関連がより重視されており,新たな知見が取り入れられている.例えば,双方のMDS(⇒p316:表4—27)の病型分類にはSF3B1変異やTP53変異の有無が,骨髄異形成関連III

元のページ  ../index.html#10

このブックを見る