5.電子顕微鏡診断の実際
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3)上皮細胞(足細胞)
糸球体基底膜の尿腔側に位置する細胞で,細胞質は多数の突起(足突起)を有し,末梢
部ではたこ足状に分岐して基底膜に接している。足突起の間には約20~55 nmのスリット
状の間隙がある。足細胞の細胞質には細線維や微細管が多く含まれている。ネフローゼ症
候群や多量の蛋白尿を呈する疾患では,足突起の表面が細かい絨毛状構造を示してボウマ
ン腔内への突出(微絨毛化),足突起間のスリット膜の消失(足突起消失),足突起にアク
チン線維の集簇が観察される。また,これらの形態変化に伴ってスリット膜が消失し,接
着装置が再構成される。足細胞障害の終末像は基底膜からの剥離である(
図7
)。
4)内皮細胞
内皮細胞は糸球体基底膜の血管腔側に位置し,核周囲には豊富な細胞質を有するが,他
の部分は基本的には平坦な細胞である。細胞質の平坦な部分には70~100 nmの小孔
(fenestra)を有している。病的変化としては,細胞腫大やfenestraの消失,内皮下腔への
血漿成分の滲入(内皮下浮腫)などがみられる(
図8
)。内皮傷害に伴い,ときに血栓や
フィブリン析出がみられる。これらの所見は糸球体腎炎やネフローゼ症候群の他に,血栓
性微小血管症や虚血性疾患,移植腎などでも観察される。
5)メサンギウム
糸球体基底膜に類似した電子密度を示す基質(メサンギウム基質)と,基質に取り囲ま
れた細胞(メサンギウム細胞)からなる。メサンギウム細胞は複雑な長い突起を有し,細
胞質には種々の細線維が豊富に存在する。糖尿病性腎症や腎硬化症では基質の増加が観察
される。メサンギウム基質内には正常でも線維状の構造がみられるので,直ちに病的と判
断しないように気を付ける(
図9
)。
6)沈着物
糸球体基底膜内,上皮下,内皮下,メサンギウム領域,係蹄内腔に種々の沈着物が観察
される場合がある(
図10
)。沈着物は電子密度や構造的特徴に注目して観察する。高電子
図8
内皮下拡大
図7
足細胞の剥離
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