作成の経緯と必要性
ANCA関連血管炎(antineutrophil cytoplasmic antibody—associated
vasculitis:AAV)の腎生検には,壊死,半月体,癒着や硬化など,新旧の糸球体病変,
尿細管間質炎,壊死性動脈炎といった血管炎関連の所見に動脈硬化や加齢の影響も加わ
り,多彩な病変がみられる(
図1
)。これらの多彩な病変から予後因子を抽出した臨床に役
立つ病理分類は,予後の予測や治療方針を決定するうえで,高齢者の多いAAV診療にお
いて重要である。
本邦の進行性腎障害に関する調査研究としては,1998年以前は半月体形成率,半月体病
期,間質病変の程度をスコア化した腎病理病期分類を用いて腎予後との相関がみられてい
た。1999年以降はこの分類では腎予後の層別化が難しくなったため
1)
,AAV腎病変におけ
る詳細なスコアシートが提唱され
2)
,検証されている。
海外ではEuropean vasculitis study group(EUVAS)を中心に,1990年代から臨床病
理学的検討が行われた結果,糸球体病変の定量的な評価は再現性や合意性が比較的高く
3)
,
正常糸球体の割合と1年後の腎機能に有意な相関があることが報告された
4)
。腎機能障害
が高度な症例では,年齢,生検時eGFR,正常糸球体の割合,尿細管萎縮,尿細管炎が1
年後eGFRの予測因子で,正常糸球体の割合と治療内容は1年後腎予後の規定因子となる
ことが報告された
5)
。これらの検討を踏まえて,AAVの腎病変を糸球体所見のみで,巣状
型,半月体型,混合型,硬化型の4型に分けるEUVAS国際分類が2010年にBerdenらに
よって提唱された。この分類は腎予後と有意な相関があることが示されている
6)
。
EUVAS国際分類の概要
1)分類の手順
(
図2
)
糸球体所見(全節性硬化,正常,細胞性半月体)に着目し,まず全節性硬化を示す糸球
体数が標本に観察される糸球体数の50%以上であれば硬化型,次に正常糸球体が50%以上
を占める例を巣状型,そして細胞性半月体を示す糸球体が50%以上認められるものを半月
体型と順に分類し,残りを混合型とする。
2)分類における定義
6)
EUVAS国際分類では,全糸球体数は最も多くの糸球体がみられる切片での数とされ,
辺縁にみられる不完全な糸球体は含まない。正常糸球体とは血管炎病変や全節性硬化がみ
られない糸球体で,虚血に伴う微細な変化,1係蹄に限局した内皮細胞腫大,1つの糸球体
で4個以内の管内炎症細胞浸潤は正常糸球体の範囲内としている。癒着,分節性硬化,広
範な虚血性変化,その他の病変(アミロイド沈着や基底膜二重化など)がみられる糸球体
は,正常糸球体から除外する。半月体については,半月体構成成分の10%以上を細胞成分
が占めれば細胞性半月体とし,細胞外基質が90%を超えるものを線維性半月体とする。す
なわち,一般に線維細胞性半月体といわれるものも,この分類では細胞性半月体に含まれ
る。全節性硬化については,80%以上の領域が硬化した糸球体と定義している。
ANCA関連血管炎―EUVAS国際分類
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