巣状分節性糸球体硬化症

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概念と定義

 巣状分節性糸球体硬化症(focal segmental glomerulosclerosis:FSGS)は,

当初,小児ネフローゼ症候群から慢性腎不全に至った症例の剖検腎に観察された,巣状・
分節性に硬化を呈する糸球体病変を指す形態学的概念であった。しかし,現在では,巣状
かつ分節性の硬化病変を示すもののみならず,本来の硬化病変には含まれない虚脱病変や
管内増殖などを示すステロイド抵抗性のネフローゼ症候群や,無症候性蛋白尿・血尿症例
なども含む包括的な臨床病理学的疾患名と考えられており,形態のみによる病名ではない
ことを認識する必要がある。

臨床事項

 原因が特定できない特発性と様々な要因を背景とする二次性に分類される(

1

)。特発性FSGSはネフローゼ症候群全体において小児で10%,成人で30%を占める。

小児では男児に多い。ステロイド抵抗性で末期腎不全に進行する可能性が高い疾患であ
り,臨床経過の異なる微小変化型ネフローゼ症候群(MCD)との鑑別が重要である。MCD
とは異なり,FSGSの蛋白尿は非選択性である。ネフロン喪失に伴う代償機構に関連した
二次性FSGSでは,一般的にネフローゼ症候群をきたすほどの蛋白尿はみられない。

病理所見

 

光顕所見 糸球体係蹄の閉塞(虚脱・消失)と基質の蓄積からなる硬化病変が,巣状

(focal),分節性(segmental)に糸球体に観察されることが基本である。硝子様病変が混

在する複合的な硬化病変であってもよい。ときに,上皮細胞の増加,メサンギウム細胞や
マクロファージなどによる管内細胞増多を伴うことがある。
 FSGS症例ではしばしば巣状の尿細管萎縮や間質の線維化を伴っており(

図1

),これら

の周囲に硬化病変を有する糸球体がないか連続切片で入念に観察する必要がある。また,
硬化病変は通常ではボウマン囊と癒着することが多いため,ボウマン囊に近い係蹄部分を
重点的に観察するとよい。
 FSGSの組織像は多彩である。現在は,従来のWHO分類を踏まえたうえで提唱された
コロンビア分類(Collpasing variant,Tip variant,Cellular variant,Perihilar variant,
NOS variant)の診断アルゴリズムによって病理診断されている(組織分類4を参照)。
 Collpasing variantは糸球体に分節性・全節性の虚脱病変に加えて糸球体上皮細胞の肥
大および過形成性変化を認める(

図2

)。Tip variantは尿細管極(Tip)で近位尿細管起始

部と係蹄が癒着するとともに糸球体内に泡沫細胞を認め,尿腔には上皮細胞増多をみる

図3

)。Cellular variantでは糸球体係蹄を閉塞するような管内細胞増多を認める(

図4

)。

Perihilar variantは分節性病変を有する糸球体の50%以上において,血管極近く(perihi-
lar)に硝子化あるいは硬化を認める。硬化病変の存在は必須ではない(

図5

)。NOS variant

は上記のどのvariantにも当てはまらないもので,分節性虚脱に糸球体上皮細胞増多を伴
わず細胞外基質の増加を示す(

図6

)。

 最も頻度が高いのはNOS variantである。Cellular variantは硬化病変の初期像の可能性

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