各 論

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A.炎症性疾患

A.炎症性疾患

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リンパ上皮性唾液腺炎

(lymphoepithelial sialadenitis)

【臨床像】

リンパ組織の増生によって片側性あるいは両側性の耳下腺腫脹を特徴とする非腫瘍性病変で

ある。一般的にはSjögren症候群と関係が深く,30〜50歳代の中年女性に好発し,口腔乾燥症
および乾燥性角結膜炎を主訴に涙腺や耳下腺,ときに顎下腺や小唾液腺の腫脹を呈する。良性
リンパ上皮性病変や筋上皮性唾液腺炎などと呼ばれることもある。抗SS-A抗体や抗SS-B抗体
などの自己抗体が陽性を示すことが多い。また,関節リウマチやその他の膠原病をしばしば合
併する。Sjögren症候群の診断としては,口唇腺の組織生検が一般的に行われる。また,経過
が長い場合には悪性リンパ腫(MALTリンパ腫)を発症することもあり,その発症危険度は非
Sjögren症候群の場合の40倍以上とされる。

【病理組織像】

図11,12

腫脹した唾液腺(特に耳下腺)には,腺実質の消失,高度のリンパ球浸潤,およびリンパ上皮

性病変(上皮筋上皮島)の形成がみられる。リンパ上皮性病変は,導管上皮の増生と上皮へのリ
ンパ球浸潤からなる。リンパ上皮性病変に好酸性の硝子様物質の沈着をみることもある。
MALTリンパ腫と異なり,単球様B細胞は目立たない。

【細胞像】

図13〜15

背景には多数の異型性のない小型リンパ球の出現をみる。そのなかに上皮細胞とリンパ球か

らなる集塊が散在する。上皮細胞成分には,類円形核の導管上皮細胞と濃縮短紡錘形核の筋上
皮細胞が混在して認められる。

【細胞診の判定区分】

良性(非腫瘍性病変)

【鑑別診断・ピットフォール】

鑑別すべき疾患としては,MALTリンパ腫,IgG4関連唾液腺炎,癌のリンパ節転移,リン

パ上皮癌,腫瘍随伴性リンパ球増殖を伴う粘表皮癌や腺房細胞癌,Warthin腫瘍などのリンパ
球性背景と上皮細胞集塊の出現する疾患が挙げられる。鑑別には,背景のリンパ球とともに上
皮細胞集塊の詳細な観察が必要である。

唾液腺周囲リンパ節の腫大,くびれを有する異型リンパ球や大型リンパ球の出現,核内封入

体(Dutcher body)等の所見が認められれば,MALTリンパ腫の可能性が高くなるが,実際に
は鑑別困難のことが多い。補助的診断法として免疫グロブリン軽鎖を含めた免疫細胞化学染色,
遺伝子的な免疫グロブリン重鎖の再構成,フローサイトメトリー等の検索が有用である。

IgG4関連唾液腺炎とは臨床像や発生部位が異なる。
その他の上記疾患とは,上皮細胞集塊の特徴像を捉えて鑑別診断する。