各 論
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A.膵管癌
A.膵管癌
(ductalcarcinoma)
WHO分類(2010)の膵腫瘍の分類では,膵管癌の高分化腺癌,中分化腺癌,低分化腺癌以外に,
組織学variantとして,腺扁平上皮癌やコロイド(粘液非嚢胞性)癌(colloid〔mucinous noncys-
tic〕carcinoma),類肝癌様癌(hepatoid carcinoma),髄様癌,混合性腺房膵管癌(mixed aci-
nar-ductal carcinoma)などの多(他)分化成分を伴う癌(carcinoma with mixed differentiation),
印環細胞癌(signet ring cell carcinoma),破骨型巨細胞を伴う未分化癌などが含まれている。
膵癌取扱い規約(第6版補訂版,2013)では,浸潤性膵管癌として,乳頭腺癌(papillary adeno-
carcinoma),管状腺癌(tubular adenocarcinoma)─高分化型(well differentiated type)・中分
化型(moderately differentiated type),低分化腺癌(poorly differentiated adenocarcinoma),
腺扁平上皮癌,粘液癌(mucinous carcinoma),退形成癌(anaplastic carcinoma)などに分類さ
れている。この中で膵原発癌の90%以上を占める通常型(非variant)の浸潤性膵管癌を中心に
臨床像,病理組織像および細胞像を述べる。
【臨床像】
多くは60歳以上で男性にやや多い。約60〜70%は膵頭部に発生し黄疸や糖尿病を発症しや
すい。膵体尾部癌では,腹部神経叢や後腹膜神経叢への浸潤による腰痛や腹痛,腹部神経の麻
痺に伴うイレウス症状や転移巣で発見されることもある。最近では,血清腫瘍マーカーCEA,
CA19-9などの上昇や画像診断の発達により,健診などで偶然発見されることも少なくない。
【病理組織像】
膵管類似の腺腔形成や膵管上皮への分化を示す組織型であるが,硬癌としての間質成分とと
もに高分化や中分化腺癌が比較的多い。また,膵管癌の前癌病変としてPanINが知られており,
adenoma-carcinoma sequenceの存在が提唱され,種々の段階のPanIN病変が明らかな浸潤性
膵管癌周囲に弧在性,多発性にみられることもある。さらに,IPMNやMCN由来の浸潤性膵
管癌もあり,その連続性,PanIN病変の有無などに注意が必要である。浸潤性膵管癌などでは
K-ras,SMAD4,p53,p16,maspin遺伝子などの異常が,IPMNではGNAS遺伝子の異常な
どが報告されている。免疫組織染色ではCEA,CA19-9や膵胆道型粘液のMUC1,胃型粘液の
MUC5ACなどが陽性となる。また,最近では術前化学療法などにより,通常型浸潤性膵管癌
の消失や壊死-変性,縮小に伴う高度の線維化,変性異型細胞の出現,出血や細胞変性に伴う
未分化癌様の変化,ならびに扁平上皮化生や扁平上皮癌様の異型細胞の出現を示すこともあり
注意が必要である。また,典型的な膵管癌以外の種々のvariantでは,それらに特異的な異型
細胞や異型背景を認める(
図23
)。
【細胞像】
総胆管病変の腫瘍細胞に比べ,細胞集塊や細胞の大きさが小さい傾向にある。膵管癌では,
高分化や中分化腺癌の頻度が高いため,細胞異型の弱いものが少なくない。しかし,細胞や核
の重積性,シート状配列とともに腺管様構築,核の大小不同,核間距離不整,核小体の明瞭化,