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体腔液

各論

各 論

A.非腫瘍性病変

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特発性体腔液貯留

【臨床像】

漿膜に炎症や透過性の亢進などの異常が認められると,体腔に病的な量の液体(体腔液)が貯

留する。臨床的にはその貯留は癌,細菌感染,結核,肝硬変など,様々な病態でみられるが,
特に原因疾患が特定できない場合も少なくない。

【細胞像】

原因疾患が特定できない場合でも,背景には少数〜多数の白血球やマクロファージが認めら

れる。しかし,粘液様物質がみられることはほとんどない。反応性中皮は,ほとんどが孤立散
在性〜4個程度までの小集塊として出現する(

図16

)。ときに10〜50個までの反応性中皮より

なる中型の集塊がみられるが,2〜3層までの平面的なものが多く,重積性は軽度で細胞配列
に不規則性はみられない(

図17

)。Pap.染色でライトグリーンに染まる類円形のcollagenous 

stroma(CS)を伴う集塊がときにみられ,CSはGiemsa染色でメタクロマジーを示す。乳頭状,
球状などの形状を示す集塊や,100個を超える大型集塊の出現は稀である。反応性中皮の相互
の結合にいくつか形態学的特徴があり,細胞と細胞が結合した部分に境界明瞭な空隙が認めら
れる所見(窓形成),細胞と細胞が直線状に結合する所見(細胞相接像),細胞がもう一つの細胞
を包含する所見(細胞相互封入像)などの細胞像がしばしば認められる。一つの細胞の核や細胞
質がもう一つの細胞の中に入り込むことで細胞が融合し,入り込んだ細胞の取り残された細胞
質が瘤状に突出する所見(hump様細胞質突起)もみられるが,出現頻度は低い。細胞の形状は
類円形〜楕円形を呈し,多形性は目立たない。細胞は2〜3倍程度の大小不同を示すが,核は
細胞に比べて均一である。そのため,小さな反応性中皮の方が核・細胞質比(N/C比)は高くな
る。300μm

2

を超える大型の反応性中皮が出現することもあるが,頻度は低い。細胞質はPap.

染色ではライトグリーン好性で,一部辺縁が不明瞭な細胞を認めるが,悪性中皮腫との比較で
は相対的に辺縁は明瞭化している。Giemsa染色では好塩基性に染色され,PAS反応では細胞
質内のグリコーゲンが顆粒状の陽性所見を示す。核は類円形で中心性に位置することが多く,
核形不整は乏しい。小型の核小体が数個認められる。核クロマチンは微細顆粒状〜細顆粒状を
呈するが,増量は示さない(

図18

)。核分裂像や核内封入体はときに認められる。核は単核の

ものが主体を占め,多核を示す反応性中皮の占める割合はおよそ10%以内であり,20%を超
えることは少ない。

【鑑別診断・ピットフォール】

反応性中皮が中型〜大型の集塊として認められる場合には,悪性中皮腫や腺癌との鑑別を要

する。悪性中皮腫や腺癌では乳頭状,球状の細胞集塊が多数みられることが多いが,反応性中
皮は平面的な配列を示し,不規則な重積性は示さない。腺癌では,集塊を形成する腫瘍細胞の
核は,切れ込みやくびれなどの異型が高度であるが,反応性中皮の核は類円形で異型が乏しい。