各 論
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B.肺癌の代表的組織型と細胞所見
A.肺癌の組織分類
WHO分類第4版は,2015年に出版された。これには2011年にTravisらが腺癌の分類とし
て提唱した内容もおよそ含まれている(J Thorac Oncol. 2011 ; 6 : 244-85)。今回の分類の特徴
は,野口分類でType A, Bにあたる予後の良い癌が上皮内癌として初めて分類されたこと,上
皮内癌から浸潤癌になる前の癌が微少浸潤癌として分類されたことにある。また,組織亜型が
分類されていたにもかかわらず,大部分の腺癌が,混合型腺癌に分類されていた浸潤癌も,混
合型腺癌を組織亜型から削除し,優位なものを主たる診断名にすることも盛り込まれた。腺癌
では多段階発癌の概念が取り入れられた分類となっている(上皮内癌,微少浸潤癌に関しては
次の項でさらに述べていく)。
腺癌以外ではWHO分類第4版(2015)において,大細胞癌が改定され,一部は扁平上皮癌,
一部は腺癌となり,ほかの臓器と同様に神経内分泌腫瘍の項目が独立した。また,今までは形
態を重視した分類であったが,分子標的治療薬の登場に伴い積極的に組織型を分類する意味を
含めて,「免疫組織化学的腺癌」「免疫組織化学的扁平上皮癌」というべき分類が新たに加わっ
た(詳細はp.44「各論B-5.大細胞癌」の項参照)。
B.肺癌の代表的組織型と細胞所見
₁
上皮内腺癌
(adenocarcinoma in situ;AIS)
と微少浸潤性
腺癌(
minimally invasive adenocarcinoma
;
MIA
)
(
図4〜9
)
【臨床像】
AIS,MIAはWHO分類第4版(2015)の肺腺癌分類に加わる新しい分類である。
いずれも3cm以下の孤立性腫瘍で,CT上は,スリガラス状陰影(ground glass opacity;
GGO)を主体とする。手術による完全切除での5年生存率はAISで100%,MIAではほぼ100%
とされる。
【病理組織像】
(
図4,7
)
AIS,MIAともに置換性増殖を示し,円柱状,木釘状,ドーム状の腫瘍細胞で,核・細胞質
比(N/C比)は比較的高く,核の偏在傾向がみられる。核は類円形,楕円形で核の大小不同,
核形不整が軽度にみられ,微細なクロマチンを有している。
さらに,AISの組織像は次のように定義される。
1) 腫瘍細胞は粘液産生の有無は問わない。
2) 間質浸潤,脈管浸潤,胸膜浸潤がないこと。
3) 乳頭状増殖および微小乳頭状増殖はみられず,肺胞内に腫瘍細胞が浮遊していないこと。