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子宮体部

総論

総 論

A.臨床的背景

本邦における子宮体癌(内膜癌)は,ライフスタイルの欧米化とともに近年増加傾向にあり,

子宮癌全体の約30%にも達している。その早期発見,予防には前癌状態とされる内膜増殖症
を的確に診断することが重要であり,月経不順や閉経後出血などのリスク因子がある場合には,
積極的に内膜細胞診を行う必要がある。

子宮内膜は,年齢,月経周期によって変化し,細胞組織の形態は日々変化している。腫瘍性

病変のみならず,炎症性変化やホルモン異常による過剰増殖,剥離など様々な病態を細胞診所
見から推定,鑑別しなければならない。女性の性機能は視床下部−下垂体−卵巣系を中心に営
まれ,この内分泌学的不調が内膜の機能異常や腫瘍性病変の発生に密接に関連している。した
がって,精度の高い内膜細胞診断を行うためには,その内分泌学的背景や臨床所見,さらにそ
の組織形態や分子生物学的背景を十分に理解することが不可欠である。

本項では,まず女性の生殖内分泌機能と内膜組織変化について示し,内膜細胞診の採取法,

採取器具,標本処理,判定法など基本的手技について述べる。そのうえで,機能性出血,内膜
増殖症,内膜癌の病態や細胞診像について,免疫細胞化学や遺伝子解析などの応用面も含めて
具体的に解説する。

B.月経周期と内膜変化

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概要

成熟婦人の月経周期は,間脳(視床下部)−下垂体−卵巣系のホルモン支配を受け,子宮内膜

は卵巣より分泌されるホルモンの影響により形態的に変化する。

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月経周期とホルモン

月経周期は,視床下部より分泌されるゴナドトロピン放出ホルモン(gonadotropin releasing 

hormone;GnRH)により始まる。GnRHは下垂体前葉に作用し,卵胞刺激ホルモン(follicle 
stimulating hormone;FSH),黄体化ホルモン(luteinizing hormone;LH)の分泌を促す。FSH
はLHとともに卵巣に作用し卵胞の発育を促し,卵胞(顆粒膜細胞・莢膜細胞)より卵胞ホルモ
ン(estrogen;E)の分泌を増加させる。Eの増加は下垂体よりのLHの急激な放出(LHサージ)
を促し成熟卵胞に作用し排卵させる。排卵後形成された黄体(顆粒膜・莢膜細胞→黄体細胞に
変化)より黄体ホルモン(progesterone;P)およびEが分泌される。黄体の退縮に伴い血中E・
P値が減少し月経が発来する(

図1

)。