2 悪性腫瘍

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性になることが多い。特定の遺伝子変異は明らかにされておらず,分泌癌にみら
れるETV6-NTRK3融合遺伝子は認めない。

臨床病理学的特徴
 ▪ 

50〜60歳台の耳下腺に発生する低異型度腫瘍

 ▪

充実型および微小囊胞型構造

 ▪ 

ジアスターゼ消化PAS染色陽性のチモーゲン顆粒

 ▪

分泌癌との鑑別が重要

2

.分泌癌

(secretory carcinoma)

概念

 2010年にSkalovaらが従来の腺房細胞癌,囊胞腺癌の一部において乳腺分泌癌
と相同のETV6-NTRK3融合遺伝子の発現を有する腫瘍群を明らかにし,乳腺相
似分泌癌(mammary analogue secretory carcinoma:MASC)と名付けた

4)

。現在,

従来,乳頭囊胞型や濾胞型腺房細胞癌として報告されてきた症例の多くがMASC
であると考えられている。2017年版WHO分類では分泌癌(secretory carcinoma)
の組織名称で記載される

1)

臨床的事項

 新しい疾患概念であり真の頻度は定かでないが,これまで腺房細胞癌と診断さ
れてきた症例の半数近くが本組織型の可能性があり,発生頻度は唾液腺癌の
10%相当と推定される。分泌癌は腺房細胞癌よりもやや若い平均40〜50歳台に
生じ,小児発生例もある。発生部位は耳下腺が多いが,顎下腺および頬粘膜,口
唇等の小唾液腺にも生じる。性差はない。腺房細胞癌同様,低悪性度の腫瘍であ

図1 

腺房細胞癌の病理組織像

好塩基性漿液性腺房細胞の充実性増殖を認める。

図2 

腺房細胞癌の病理組織像

微小囊胞性増殖を認める。