第Ⅴ章 唾液腺腫瘍の病理
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悪性腫瘍
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.腺房細胞癌
(aciniccellcarcinoma)
概念
漿液性腺房への分化を示す低悪性度の癌腫である。WHO組織分類第1版では
良悪性境界腫瘍に位置づけされacinic cell tumorの名称であったが,その後再発
転移症例が報告され,第2版以降はacinic cell carcinomaの組織名になった。従
来からその組織細胞多彩性が特徴とされてきたが,遺伝子異常の検索により,現
在では充実型以外の亜型,特に乳頭囊胞型や濾胞型腺房細胞癌とされてきた症例
の多くが分泌癌であると考えられており,真の腺房細胞癌の診断は厳密になされ
るべきである。
臨床的事項
頻度は全唾液腺腫瘍の約9%,唾液腺癌の17%を占めるとされてきたが,今
後分泌癌の解析が進むにつれて腺房細胞癌の発生頻度の記載に変更が生じる可能
性がある。発生の平均年齢は50〜60歳台であり,大唾液腺に多く80%が耳下腺
に発生する。性差はやや女性に優勢である。一般的に生命予後良好な腫瘍で,再
発率15〜44%,リンパ節転移率7.9〜16%とされ,死亡例の報告は少ない。
病理学的所見
腫瘍径1〜3cmの線維増生に乏しい単発の境界明瞭な髄様充実性腫瘍で,割面
は暗褐色調〜黄白色調を呈し,出血を伴うことがある。組織学的に細胞質内にジ
アスターゼ消化PAS染色抵抗性のチモーゲン顆粒を有する漿液性腺房への分化
を示し,腫瘍性筋上皮細胞の介在は伴わない。組織構築はいわゆる“blue dot tu-
mor”の形状を呈し,唾液腺漿液性腺房を模倣する均一な腫瘍細胞が細血管間質
を介して充実性,胞巣状,索状に増殖する充実型構造(solid patten)が基本形で
(
図1
),この充実部分と移行するように介在部導管細胞を模倣するとされる淡好
酸性〜暗調な腫瘍細胞の腺様〜小腔形成からなる微小囊胞状構造(microcystic
pattern)
(
図2
)をとることが多い。腫瘍細胞は核クロマチンに濃染する小型類円
形核と暗調で好塩基性顆粒状細胞質を有し,核の多形性に乏しく核小体は小型か
目立たない。核分裂像はまれである。間質の線維増生を伴うことは少ない。腫瘍
内外にヘモジデリン沈着や腫瘍随伴リンパ球増生(tumor-associated lymphoid pro-
liferation:TALP)がみられることがある。従来の乳頭囊胞型および濾胞型腺房細
胞癌といわれていた組織像をみる場合は分泌癌を疑うべきである。
免疫染色では上皮系マーカーの他にα -アミラーゼ,IgA,DOG1,SOX10が陽
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