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岡さんという一面識もない人から唐突な便りが届いたのは今から五年前だ。東京都府中市の方だ。深刻な相談だった。六十代前半の妻に大腸癌が発見された、主治医に即手術をと言われ私も同意したが、妻が頑として言うことを聞かないので困っている、とのこと。奥さんが手術を受けない理由は、近藤誠氏の本を読んでその信奉者になってしまったからだという。元慶應大学医学部放射線科講師の近藤さんは、『患者よ、がんと闘うな』なるセンセーショナルなタイトルの本を著して以来、次々と癌治療に携わる医者の批判本を書き、外科医はすぐに手術を、内科医は抗癌剤を勧めるが、進行癌には無意味、いずれ再発するし、手術の侵襲や失敗、抗癌剤の副作用で徒いずらに苦しむだけ、お勧めは痛くも痒くもなく、通院で済む放射線治療くらいだ、などと、我田引水もいいところの極論を吐き続けた。岡夫人は、そうした近藤理論に洗脳されてしまったらしい。28た

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