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救いはただ一つ、綾さんの顔に、かの男性のような〝死相〟はまったく見られないことだ。綾さんは当院へ来る前、婦人科系の病気ではないかと自己診断し、近在の婦人科医を受診している。ほぼ同年配の女医さんだった由。卵巣の片方がやや腫大しているが問題はないだろう、ただし、エコーで腹水が下腹腔に少々たまっている。原因は分からないが尋常なことではないから、かかりつけ医に診てもらうようにと言われた由。(婦人科系でないとすれば消化器系の癌のはずだが……)直腸診に次いで、念のため、直腸鏡を試みる。これは麻酔も要せず、外来で手軽に行える。先端にゼリーを塗った約二十五センチ長のプラスチック製の筒を差し入れていく。空気を送って直腸を膨らませながらの作業だが、便にさえぎられて見えなくなることもある。その時は筒を引き抜いて便を除き、やり直しだ。直腸は精々十五センチ長くらいだから二十センチも押し進められればS状結腸129第七章 奇跡を生んだ抗癌剤

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