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綾さんは六十一歳の女性。独身で中学の体育の教師を定年退職したばかり。平成二十六年一月二十九日、前年の暮から大小便がすっきり出ないと訴えて来院した。初診ではない、平成二十年以来、腰痛、手首の腱鞘炎、風邪症候群で不定期に来たことがある。その頃はまだ現役の教師であった。診療所の診療圏ではない、車で三十分は要する市の外れの住人だ。百六十センチで五十八キロ、女性としては大柄な方だ。体育教師らしく明朗だが、それにしては訴えが判然とせず、もう一つ捉えどころがない印象があった。今回の訴えもやや漠然としている。大便が出にくい、出ても細くて小さく、すぐにまた便意を催す、という訴えからは大腸癌が疑わしい。小水もすっきりしないというのはどういうことかと問いただすと、大便と同じく出切らない感じで頻尿気味だと。排尿痛はないから膀胱炎ではなさそうだ。頻回に尿意を覚えるというのは膀胱の容量が減っていることが考えられ、原因としては腫瘍が疑われる。尿は外見的には黄色透明で正常尿だが、念のため細胞診に回す。膀胱癌であれば癌細胞が見出されるはずだ。126

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