ブルーライトテキストブック

本邦初!近年話題のブルーライトに関する医学的テキストブック

編 集 坪田 一男
定 価 7,020円
(6,500円+税)
発行日 2016/06/20
ISBN 978-4-307-35165-2

B5判・230頁・カラー図数:147枚

在庫状況 あり

効率が良く便利である反面、人間の生活に影響を与えることもあるブルーライト。その問題はもはや社会全体の問題であり、眼科医はもとより、精神科医、小児科医、睡眠の専門家、時間生物学者、LED産業関係者、照明関係者など、などさまざまな領域にかかわる横断的な課題である。そこで、この問題の各領域を横断して知識を整理できる医学的なエビデンスに基づいた総合的な教科書として本書を出版した。
■チャプター1 社会的背景
1 照明の歴史
2 LED光源の原理とスペクトル構造
3 照明器具の光生物学的安全性
4 スマートフォンやPCのバックライトとしての応用と普及

■チャプター2 ブルーライトが網膜に与える影響
1 ブルーライト、光と加齢黄斑変性の疫学
2 網膜光毒性:現状評価と課題
3 網膜光酸化ストレスの基礎および臨床
4 光曝露が加齢黄斑変性のリスクになり得るメカニズム
5 光曝露、酸素代謝、網膜損傷:光の“陰と陽”
6 ブルーライトから網膜を守るルテインとゼアキサンチン
7 加齢や白内障手術による黄斑色素密度の変化

■チャプター3 ブルーライトと眼科疾患、眼精疲労、片頭痛
1 ブルーライトと瞳孔反応
2 羞明とブルーライト
3 ブルーライトの散乱が眼精疲労、視機能に及ぼす影響
4 ブルーライトと片頭痛
5 白内障手術とブルーライト
6 ブルーライトが網膜の細胞障害を起こすメカニズム

■チャプター4 サーカディアンリズムの基礎
1 生物時計−その機能と構造
2 視交叉上核
3 概日時計の発振メカニズムと時計蛋白質の翻訳後修飾
4 食事と時計
5 生体リズムと疾病

■チャプター5 サーカディアンリズムとブルーライト
1 ブルーライト研究の歴史と概日時計とのかかわり
2 アウト・オブ・サイト:ヒトの行動や生理に対する光の効果
 【原文】Out of sight:light effects on human behavior and physiology
3 夜間勤務によるサーカディアンリズムの乱れと発がんリスク
4 視交叉上核の光応答性と位相調節

■チャプター6 ブルーライト問題への対処法
1 ブルーライトカット眼鏡による対応
2 ブルーライト削減LEDによる対応
3 ブルーライト障害に対するルテインのサプリメント摂取
4 細胞ストレスを緩和する視覚サイクルモデュレーター
5 アンチエイジングアプローチによるブルーライト対応
眼はカメラであり時計だった!
 2014年、ブルーLEDの発明に対して日本の3人の科学者がノーベル物理学賞を受賞した。赤LED、緑LEDに加えて、ブルーLEDが開発されたことにより、人類はLEDによってきれいな白色光を得ることになり、まさに照明といえばLEDの世界がやってきたのである。LED照明により世界はより明るくなり、24時間稼働する社会に変貌しつつある。
 人類はもともとは光を持たなかったが、50万年ほど前に火を使えるようになり、数百年前の油ランプ、石油ランプを経て、ついに1879年のトーマス・エジソンによる電球の発明に至って世界は真の光を手に入れた。その後、1926年にエトムント・ゲルマーによって現在の蛍光灯の原型が発案され、LEDの開発につながっていく。LED (light emitting diode)は文字通り、電気を流すことによって単一波長の光を出す半導体であり、エネルギー効率が良いことから現代の光の主役になっている。
さて、LEDの中でも現在ブルーLEDが大きな社会的問題になっているのはなぜであろうか?ブルーLEDは従来の光源に比べて格段に明るく、輝度の面では100年前とは比べものにならないレベルになっている。室内照明ばかりでなく、TV、コンピュータのモニター、スマートフォンなど、ほとんどすべての光源として使われているが、実は輝度の問題ばかりでなく、このブルーの波長が大きな問題となっているのである。
 眼は視覚情報のためのカメラである。眼科学はまさにこの立場から眼疾病学(眼の病気の学問)と眼光学の2つが融合して発展してきた。最近になり、新たな視点が登場した。“眼はカメラであり時計だった!”という概念だ。
 一般的に言われる体内時計は、一日のリズムを決め代謝をつかさどる。我々の体細胞60兆個のほとんどすべての細胞に時計遺伝子が組み込まれていることが判明し、健全な体内時計が健康には必須であることがわかってきた。その体内時計を決めているのが光、特にブルーライトであることがわかり大きな注目を浴びるようになってきたのだ。2002年にマウスで見つかった第3の光受容体であるipRGC (intrinsically photosensitive retinal ganglion cells:内因性光感受性網膜神経節細胞)はブルーライトに吸収極大があり、赤や緑の光にはあまり反応しない。ipRGCはブルーライトの情報を脳内の視交叉上核に送り、体内時計を決定する。すなわち、時計としての眼はブルーライトを見るようにできている。見るといっても視覚情報ではなく、non-visual information (視覚外情報)として処理される。そこで夜のブルーライトは光の強さでも、波長特性においても“脳を覚醒”してしまい、体内時計を乱す。体内時計の乱れは睡眠障害のみならず、うつ、糖尿病、高血圧、肥満に加えて、なんと乳がんや前立腺がんの罹患率も上げることがわかってきた。既にアメリカ医師会は現代を“光公害の時代”と言明している。大気汚染でもなく、放射線公害でもなく、“光”そのものによる公害の時代と認識すべきという驚くべき見解だ。
 さらには、視覚情報化が進み、社会全体として眼が酷使されるようになり、体内時計への影響に加えてブルーライトによる眼の障害がクローズアップされてきた。紫外線が眼に悪いことはよく知られているが、ほとんどは角膜、水晶体でブロックされてしまうために、実際に網膜レベルで障害を起こすのは短波長の可視光であるブルーライトの可能性が高いことがわかってきたからだ。さらにはブルーライトによる光散乱がドライアイの悪化原因とも考えられるようになり、新たな問題を惹起しつつある。ブルーライト問題はもはや社会全体の問題であり、眼科医はもとより、精神科医、小児科医、睡眠の専門家、時間生物学者、LED産業、照明関係者など、などさまざまな領域にかかわる横断的な課題である。そこで今回、このブルーライト問題を各領域を横断する総合的な教科書として企画した。
 LED照明の基礎から始まり、まずはブルーライトが眼自体に与える影響について、本邦のトップレベルの研究者に執筆を依頼した。ブルーライトが網膜に与える影響や眼精疲労への影響がこの章のテーマである。次章では、体内時計とブルーライトの関係を詳細に論じ、その後、ブルーライト対策をどのようにすべきかを検討するという章立てとなっている。
 眼はカメラでもあるが、時計でもあり、Quality of Lifeはもちろん、我々の健康にも直接影響を与える大切な臓器である。長年カメラとしての眼は眼科医がケアしてきた。時計としての眼は、眼科医はもちろんのこと、さまざまな学際領域の先生方と力を合わせて解決していくべき領域といえる。時代の流れからはLED照明のない社会は避けられない。エネルギー問題はもとより、耐久性やコストの問題からもLEDが光の主体となっていくだろう。一方で、子どものスマートフォン中毒問題など今までになかった新たな問題が急激に台頭してきた。車社会になって、交通事故が増えた数十年前の日本では社会全体が一丸となって交通事故の撲滅にチャレンジし、完全ではないものの交通事故の比率は劇的に低下し、エアーバッグの開発や事故を起こしても搭乗者を守る車の設計などの技術革新が起きた。ブルーライトについても正面からこの技術を大切に見守り、同時にすべての科学技術についてまわる負の側面を逆に技術革新のチャンスととらえて問題を解決していくことが、これからの社会にとって重要ではないだろうか。
 本教科書が現代社会におけるブルーライト問題の現状認識、解決の糸口になり、将来の学際的な技術革新の礎になったらこれほどうれしいことはない。

慶應義塾大学医学部眼科学教室
坪田 一男