今すぐ始めたい 婦人科がん領域における緩和医療の実践

婦人科がんに特化した緩和ケアの実践書、登場!

編 集 鈴木 直 / 藤村 正樹 / 宮城 悦子 / 東口 高志
定 価 6,912円
(6,400円+税)
発行日 2017/04/14
ISBN 978-4-307-30130-5

B5判・352頁・図数:83枚・カラー図数:9枚

在庫状況 あり

患者の苦痛緩和のために、がん治療の早期から提供される必要がある緩和ケア。なかでも婦人科がん(子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がん)は、妊孕性や女性ならではの感情などに大きく関わる特殊な領域といえる。本書は婦人科がんにおける緩和医療の役割や緩和ケアの実践について、婦人科がん治療医と緩和ケア医が共同で執筆。臨床現場に則したケースレポートも収載している。婦人科がんに携わる医療スタッフに役立つ一冊。
第1章 総論
・婦人科がんと緩和医療
1.婦人科医の立場から
2.緩和ケア医の立場から


第2章 各論(症状)
・婦人科がんの基礎知識
3.婦人科がんの診断と治療
4.婦人科がん治療後の合併症
5.婦人科がんと再発・再燃

・各症状への対応
6.痛み:侵害受容性疼痛
7.痛み:神経障害性疼痛
8.だるさ
9.リンパ浮腫
10.悪性消化管閉塞
11.腹水
12.胸水、呼吸困難
13.血栓症
14.瘻孔
15.褥瘡
16.脊髄圧迫
17.適応障害
18.せん妄
19.スピリチュアル・ペイン


第3章 各論(治療)
20.がん悪液質と代謝制御
21.輸液療法
22.ギアチェンジ(バッドニュース)
23.食について
24.緩和医療としてのインターベンショナルラジオロジー
25.放射線治療
26.緩和的化学療法
27.オピオイドスイッチング
28.鎮痛補助薬
29.神経ブロック
30.鎮静
31.漢方療法
32.補完代替療法


第4章 症例呈示
1.尿管子宮内膜症との鑑別を要し、疼痛緩和に苦慮した後腹膜平滑筋肉腫の1例
2.在宅療養への移行に際し、経済的・家庭的問題に直面した若年の子宮頸がんの1例
3.高カルシウム血症の治療に苦慮した進行卵巣がんの1例
4.悪性腸腰筋症候群を呈した子宮頸がんIVB期の1例
5.大学病院で行う緩和医療−全人的ケアの重要性を再確認した子宮頸がんの1例

COLUMN
1.緩和医療における臨床試験の現状
2.緩和ケアチームと婦人科がん
3.Rapid onset opioid(ROO)
4.上大静脈症候群
5.大学病院における緩和ケアの現状と展望
6.地域連携に関して
7.婦人科領域の在宅がん緩和ケアの実際
8.ホスピス・緩和ケア病棟
9.「婦人科腫瘍の緩和医療を考える会」
・巻頭言

 WHOの定義(1990年)では緩和ケアとは「治癒を目指した治療の有効性がなくなった患者に対する積極的な全人的ケアである」とされていたが、2002年には「生命を脅かす様な疾患に直面している患者とその家族に対して、早期より、痛みや身体的、心理社会的、スピリチュアルな問題の同定と評価、治療を行うことにより、予防や苦痛を軽減したりすることで、QOLを改善するためのアプローチである」と再定義された。これを受け、国内では癌治療の早期からの緩和医療導入の重要性を認め、2007年に施行された「がん対策基本法」にこの考えを取り入れた。日本婦人科腫瘍学会では私が学会長であった2008年の学術講演会には保坂 隆先生(現聖路加国際病院)を招いて精神腫瘍学の講演をして頂いた。2012年の婦人科がん会議でも東口 高志先生(藤田保健衛生大学)を招き、緩和医療について解り易く講演して頂いた。また同年には、有志で「婦人科腫瘍の緩和医療を考える会」を立ち上げ、藤村 正樹先生(東京医科大学)に理事長に就いて頂き、第1回の講演セミナーを開催し、私も監事かつ御意見番としてこれに加わった。さらに日本婦人科腫瘍学会の『卵巣がん治療ガイドライン』2015年版には、林 和彦先生(東京女子医科大学)執筆による緩和ケアの項も新たに追加された。振り返れば会の立ち上げから既に5年、このたび婦人科では初となる緩和医療の指南書が発刊されるに至ったことは大いなる慶びである。
 WHOの新たな定義でも触れられている様に、現在緩和ケアとは積極的な癌治療の一方で、病気の初期段階から適用され、多職種(医師、看護師、薬剤師、社会福祉士、理学療法士、臨床心理士、歯科医師、管理栄養士、メディカルソーシャルワーカー等)でチーム医療を行うことにより、各種の苦痛(全人的苦痛)に対し、患者と家族の意向を十分に尊重しつつ、彼らの側面から生活の質を支援・改善する環境を提供することにある。
 婦人科がんではその臓器特性より、様々な要因が複雑に絡み合い、早期から緩和ケアを必要とする症例も少なくなく、家庭内や経済上の問題等による社会的苦痛に対しても、これまで以上に踏み込んだ緩和ケアが要求されることから、本書では婦人科腫瘍の治療医と、緩和ケア医および関連他科やパラメディカルの方々が概ね半々で共同執筆した。
 近い将来、婦人科がんでも多職種によるチーム医療と、地域の受け皿である病院や在宅医、訪問看護師、ケアマネージャー等との緊密な地域連携が図られ、診断時から、治療を受けた病院を離れて自宅や施設で過ごし、さらには看取りまでの切れ目ない緩和ケア(全人的医療)を提供する体制が整うことが望まれる。そのためにも若手婦人科医を含め、婦人科腫瘍に携わる多くの医師が緩和医療に興味を持って本書を読まれることを願って止まない。

2017年3月10日
藤田保健衛生大学名誉教授、獨協医科大学特任教授
宇田川 康博



・企画者のことば

 従来、緩和ケアは「看取りの医療」と捉えられる傾向があり、あるいはその様な印象を持たれている医療従事者も依然少なくないのではないかと考える。しかしながら、緩和ケアは病期や治療の場所を問わず、患者の苦痛緩和のためにいつでもどこでも提供される必要があり、2007年に施行されたがん対策基本法の中でも「治療早期からの緩和医療導入の重要性」が述べられている。すなわち緩和ケアは、ギアチェンジ後の積極的治療が不可能となった状態になってからのがん患者に提供する医療であるだけではなく、がんと初めて診断されたその時から可能な限り早期に提供すべき医療であることを改めて認識すべきである。一方、WHOの2002年の定義では「身体や心のつらさ」に焦点が当てられており、がん患者に対する精神腫瘍学的アプローチの重要性も認識すべきである。がんの告知は患者に死を連想させ、非常に大きな心理的ストレスとなることから、がん患者は不安や抑うつを中心とした精神症状を多く呈することとなるが、がん患者に対する精神状態の評価が見過ごされている現状が少なくない。適切な早期の精神腫瘍学的介入は、患者の苦痛の軽減、生活の質の向上、がん治療における患者の適切な意思決定、家族の負担の軽減という観点から重要である。
 婦人科がんは、身体面、機能面、社会面、心理面、ホルモンの欠落による問題など多くの面で患者の生活の質に影響を与えることとなり、特に若年がん患者にとって妊孕性温存が不可能となる場合には、さらなる苦痛を与えることとなる。加えて、女性としてのみならず母として妻として家庭や家族のことを考えなければならない場合もある婦人科がん患者にとって、精神的な負担も大きくなることから、婦人科がん診療における緩和医療の早期の実践は大変重要である。近年、婦人科がん診療の進歩はめざましいものがあるが、しかしその一方で、様々な苦痛に対する治療の評価や患者の心のケアなど、エビデンスだけでは語ることのできない緩和医療の確実な実践も忘れてはならない。婦人科腫瘍医としてEBM(evidence based medicine)に基づいた積極的治療を行う専門家であることは当然であるが、NBM(narrative based medicine)に関わる緩和ケアに関する専門知識も十分に有することが真の意味での腫瘍の専門家となり得ると考える。
 以上より、この度婦人科がん領域にも一部特化した緩和医療の適切な実践を目指した本書の企画を計画・立案させて頂いた。なお、本書の企画から出版まで数年以上の年月をかけて情熱を込めてご担当された、金原出版株式会社編集部の安達 友里子様に衷心より御礼申し上げます。さらに、本書を専門的見地からご高閲頂きました東口 高志教授に深謝申し上げます。また、婦人科がん領域の緩和医療における本邦の中心的役割を担っておられ、本書の編集にご参画頂きました藤村 正樹教授、宮城 悦子教授に深く御礼申し上げます。最後に、婦人科がん領域の緩和医療の実践に関するご指南を賜り、長い間ご指導を頂いております恩師:宇田川 康博先生に御礼申し上げます。

2017年2月25日
編者を代表して 鈴木 直