国立がん研究センター東病院方式 腹腔鏡下直腸癌手術徹底レクチャー[手術総論・TME・ISR編]DVD付

常に進化する「国がん東病院式」徹底レクチャーシリーズ第2弾!直腸手術を完全マスター!!

著 者 伊藤 雅昭
定 価 12,960円
(12,000円+税)
発行日 2018/04/10
ISBN 978-4-307-20376-0

B5判・220頁・図数:1枚・カラー図数:575枚

在庫状況 あり

国がん東病院大腸外科、伊藤雅昭をメンターとする勉強会「伊藤塾」。同会は短期間で技術認定合格者や内視鏡手術巧者を輩出してきた。書籍化第2弾となる今回は直腸癌手術手技について徹底的に討論。総論では独自の作業分解手法に基づく効率的技術習得の要点を解説。各論ではTME(直腸間膜全切除)とISR(括約筋間直腸切除術)に作業分解を適用し、緻密な文章と多数の分解写真で手技を記述した。各論対応DVD付。


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序文
執筆者一覧/本書の読み方
付録DVDの使い方

総論 Outline 内視鏡手術技術習得のためのメソッドとカリキュラム

Lecture 01 内視鏡手術序論
 Section 01 臨床試験からみた内視鏡手術
 Section 02 Team NCC Eastはさらに進化する
Lecture 02 効率的習得のための作業分解
 Section 01 内視鏡手術とは何か
 Section 02 内視鏡手術を分解する
Lecture 03 術者の要素作業「剥離」を動作に分解する
 Section 01 術者左手で行う動作
 Section 02 術者右手で行う動作
Lecture 04 視野展開力 助手の力量+術者の支配力=チームの視野展開力
 Section 01 視野展開における助手のコントロール
 Section 02 視野展開の基本原則
 Section 03 3次元視野展開(3D traction)を行うための3原則
 Section 04 助手の作業とスコピストの作業
Lecture 05 Team NCC Eastの進化形
 Section 01 評価・フィードバックは繰り返すことに意味がある
 Section 02 Learning curveゼロを目指して


各論 Detail 「作業分解手法」によるTME・ISRの基本手技

Sequence 00 腹腔鏡下直腸切除における前半部分―TME開始に至るまでの手術操作―
 Scene 01 直腸後腔に入る 腹膜翻転部までの右壁剥離と直腸背側剥離
  Note Rectosacral fasciaの解剖
 Scene 02 内側アプローチからIMA処理
 Scene 03 血管処理後の内側アプローチ
 Scene 04 外側アプローチ
 Scene 05 脾彎曲部授動
  Note 術中に血流温存を可視化する
 Scene 06 直腸左側剥離

 伊藤の目
 癒着剥離はちょっとだけ腸間膜寄りで
 口側結腸授動のための3条件

Sequence 01 TME(total mesorectal excision)
 Scene 01 前壁(1)
  Note 直腸牽引方法の工夫
 Scene 02 右側壁
 Scene 03 左側壁
 Scene 04 前側壁(NVB近傍の剥離)
  Note 中直腸動脈の解剖
 Scene 05 後壁
 Scene 06 前壁(2)
 Scene 07 直腸間膜処理
 Scene 08 切離・吻合
  Note 直腸癌における腹腔鏡手術と開腹手術の大規模比較試験の世界現状
  Note 直腸切離方法、切離回数および縫合不全の関連性
  Note 再建方法のエビデンス

 伊藤の目
 助手鉗子の位置の注意点
 肛門挙筋付近の剥離層について
 術者左手による牽引方向の工夫
 右下ポート配置
 止血のための有用なデバイス:止血用吸引管
 間膜処理のスピードアップテクニック
 自動縫合器の選択について
 恥骨上からの直腸縦切離法
 着脱式クランパーとドワイヤン鉗子の使い分け
 アンビルヘッドのサイズ選択について
 吻合部が低位の場合のstaple line損傷予防法

Sequence 02 ISR(intersphincteric resection)
 Scene 01 腹腔側からのintersphincteric dissection
 Scene 02 領域(1)直腸側方
 Scene 03 領域(2)直腸前側方
 Scene 04 領域(3)直腸後方
 Scene 05 領域(4)直腸前方
 Scene 06 肛門操作のためのセッティング
 Scene 07 開肛器を用いた肛門展開
 Scene 08 肛門管剥離
 Scene 09 口側結腸の切離
 Scene 10 肛門吻合
  Note 直腸切除術後の再建方法について
  Note ISR術後の肛門機能
  Note 排便機能障害に対する仙骨神経刺激療法について

 伊藤の目
 肛門管の解剖(HL、DL、AVの関係)
 側方→前側方か、前側方→側方か
 肛門管近傍の外科解剖の特徴に沿ったISRの剥離方法
 術後の粘膜脱予防や強固な吻合のためのコツ

索引
あとがき・推薦のことば
 みなさんの原点って何ですか?

 この漠然とした問いに行きついた理由については自分でもよくわからない。ただテレビで薬師丸ひろ子が「セーラー服と機関銃」を歌っている姿を見てなぜか涙が込み上げてきたからともいえる。言い訳のように聞こえるが、この曲にとりわけ思い出があるわけではない。ただこの曲の流れていた当時の懐かしい情景がその時の僕に何かを刷り込んだようである。このような偶然が何かを思い出すきっかけになることは珍しくない。
 
 僕は中学から高校にかけて映画を一人でよく見に行くような少年だった。さらに駄作ではあるが自分でシナリオを書いて8mm映画も何本かつくった。当時は自分の才能のなさに本当に辟易として、周りの才能に満ちあふれた同級生に嫉妬していた。その中でも特に異彩を放っていた同級生が昨年他界した。彼と最後に飲んだ時の情景は今でもはっきりと思い出される。昔からのたまり場である渋谷のお店で飲んだ記憶が最後である。その時の何かもやもやしたままの感情が今でも消し去ることはできない。彼は最後の仕事として、一本の劇場映画を残して去っていった。もう確認することはできないが、彼も思春期の強烈な記憶の一端を忘れずに心のどこかにしまっておいたはずだ。高校時代に彼と一緒に撮った最後の映画から長い時間を経てカルマは小名木川に導かれた。多感な時期に僕らはお互いのidentityの交錯に時間を費やし、不要な汗をかき、息弾ませて走ることに没頭した。とても無駄で、退屈で、時々楽しい時間の繰り返しが少しだけ僕らに模倣でなく新たな価値をつくることの楽しさを残してくれた。
 僕の原点?

 僕はなぜか外科医になった。幼少の何かのきっかけがその動機づけとなり、小学校の卒業文集に将来の夢として宣言するような過程を踏んできたわけでもない。むしろ大学の卒業間近に外科医になろうと告白した時に後輩にひどく罵られた。もともと太く短い僕の指は到底スマートな外科医のそれには似合わない。器用さ、繊細さというイメージからほど遠いものだと的確に指摘された。それでも外科の道に進んだことには少しばかりの憧れがあったからである。やったことのない手術という一大イベントを完結させることができたときにどんな充実感があるのだろう? そんな漠然とした憧れに、並行する自分はイエスを出した。時に華美なイメージは現実を超え、次第に妄想に転じる。妄想が現実に引き戻される転換期は、「国立がん研究センター東病院」で外科レジデントとしての一歩を踏み出したときだった。

 国立がんセンター外科レジデントとしての1年目の日常はあまり思い出したくないほどだ。何がきついかといえば、手術の技量が明らかに同年代のレジデント医師たちと比べ劣っていた。結果として3年間に執刀したすべての手術に満足できたことは一度もなかった。一例一例、悶々と自らの知識、技量、判断の不足を自答する日々。技術を生業とする外科医にとって手術が下手であると認識せざるを得ないこの現実は、本当につらいものである。中でも最も強烈な思い出は、外科医にとって日常的に行われるべき「糸結び」の技量不足であった。外科医の名刺代わりともいえる「糸結び」において僕は明らかに下手であった。精度に欠け、時間のかかる糸結びしか患者さんに提供できない自分の技量不足の現実を認めるしか選択肢はなかった。
 当時外科レジデントの白衣には、練習で結ばれたたくさんの糸がぶら下がっていた。どの外科医も暇さえあれば四六時中糸結びの練習をしていた。その結果、ほぼすべての若い外科医の白衣にはたくさんの絹糸がぶら下がっていたというわけである。それは決して見栄えのいいものとはいえないが、今になってみるとみんな自分の手術技量に満足していなかったことを懐かしく理解できる。そんな時期に幸運にも目指すべき外科医に出会うことができた。小野正人先生は僕ほど短くはないが、一見どんくさい太い指で行われる、最も美しく最も早い糸結びの光景は、今でも容易に思い出すことができる。輝いていた。外科医として手術に向かう戦略は卓越していた。どんなに難しい手術であってもそれを乗り越える戦略があった。初めて超えるべき大きな目標を得た気がした。でも高く遠く、すぐには絶対に到達できない道のり。
 これが僕の外科医としての原点であったと思う。

 二重らせん。
 ヒトの遺伝子配列は極めて巧妙で単純だ。二重らせんを形作る4つの塩基配列がすべての生物の原点である。
 この4つの塩基配列が相互に結びつきながら、2つのらせんはゆったりと弧を描き、今ある場所から一度離れたかと思えばまたゆっくりと元の場所に戻ってくる。約10個の塩基配列を経てらせんは1回転し、元の場所に近づいたときにらせんは少しばかり上にいる。
 最近訪れたイタリアのある町での1枚の写真。夕暮れ時のあまりにも美しい景観は右側に山があり、左側にはタオルミーナの海原が広がっていた。ギリシャ人によって紀元前3世紀頃建設されたこの古い劇場では、今なおコンサートが催されている。旅の主たる目的ではなかったが、ふと訪れたこの場所の美しさに不意をつかれたようにしばらく動けなかった。

 そして、ここにもう一つの写真がある。
 僕の父が残した本のあるページにこの写真があった。35年前にギリシャ劇場のおそらく同じ場所からこの写真は撮られている(と確信した)。
 父は存命の頃、40代半ばでイタリアの美術品を日本に持ち込む仕事をしていて、その一連のイタリア道中を自らの紀行文として残していた。他界した後に残された1冊の本をあまり大きな感動もなく流し読みした記憶しかない。
 しかし、再びこの写真を見つけた時に僕は大きく心が揺さぶられた。
 二つのらせんは、同じ場所に戻っていた。
 父が記したその本はおそらく父にとって一つの原点であったと思う。父が40代半ばで初めて訪れたイタリアの美しく、強烈な印象とともにこの記憶を原点として残しておきたかったのだと今の僕は理解できる。そして同じような年でなんの約束もなく、偶然同じ場所の同じ景色に心を奪われたことで、もうそれでいいと僕は思う。
 
 本書は我々NCC Eastの原点の書である。我々のDNAの集大成である。
 直腸癌の治療を腹腔鏡手術で行うと決めた日から、毎朝毎朝細かいことにもこだわり、熱い議論にエネルギーを消耗しながら、それでも息弾ませて走ることをやめなかった僕の原点がこの本の中にあると僭越ながらに思う。
 前作に続き多くの方々のご尽力によってやっと完成しました。執筆やビデオ作製に力を貸してくださった大腸外科の皆様に心より感謝申し上げます。また、不精な僕の執筆活動を見捨てずに完成まで導いてくださった金原出版の片山晴一さん、編集協力の佐藤嘉宏さん、動画編集協力の増田泰史さんにはとりわけ感謝申し上げます。
 そして、いつかみなさんの歩むらせんがまた偶然にもこの書に近づくことがあれば、心から幸せだと思えます。
 いつか同じ景色を見ることを夢見て。


2018年3月4日
北京空港から飛び立った空の上で再びこの序文を書き終える。
伊藤 雅昭
推薦のことば

 私と編著者の伊藤先生とは二十年来の親友である。
 彼がレジデントとして国立がん研究センター東病院(以下、東病院)の骨盤外科へ入職した当時、私はその部署のリーダーであった。成り行き上、外科の手ほどきは私がした。今は知らないが、当時レジデントの給料は雀の涙ほどにはかなく、仕事の質と量はカバのうんこのように大変で、身分は奴隷並みであった。だからほんの少しでも知恵があれば普通人はレジデントにはならない。そこにあえて身を置こうとレジデントを目指して来るような人はだいたい規格外の人物である。中でも彼は激しく規格外であった。まず彼は世の中を本当になめていた。彼は都内の超エリート高校で豪華絢爛、放蕩三昧な青春を過ごしていたにもかかわらず、たった3か月間の受験勉強だけで一流国立大学に現役合格してしまっている。つまり世間様をコケにするくらい情報処理能力や理解力が高かったわけである。医療実務でも、レジデントにとって相当ハイレベルな課題でもホイホイと余裕でできてしまっていた。だから非常に有能で、実に生意気な奴というのが最初の印象であった。
 しかし、手術手技に関してはさすがの彼もすぐには才能を発揮できなかった。当時一般的な外科の手術手技の教育は少なからず封建的徒弟制であった。下働きを一定期間しないと技術は伝授されないとか、さらに保守的な施設では、「技術は盗め」などとまことしやかにささやかれたものである。東病院では、当時の水準からすると破格に民主的な教育がなされていたが、それでも下部直腸の開腹手術では骨盤底まで完全に視認できるのは術者だけで第一助手でさえ満足には術野を拝めなかった。ましてレジデントの定位置である患者の股間にいる第二助手に至ってはギャラリーとして見学するほうがまだ術野を見ることができたほどである。だからさすがの彼の能力をもってしても手術手技の獲得は容易ではなかった。
 それでも彼は手技の獲得に関して非常に貪欲であった。基本的に彼は会話がうまい。中でも他人から話を引き出すのがうまい。疑問点を抽出してしつこく分析した後、納得がいくまで術者を尋問するのである。解剖や手術の教科書を十分に吟味したうえで、十数年も先輩の、仰ぎ見るようでなければならぬ師匠であるはずの私に対して生意気にも理性的なhot discussionを挑んできた。そしてそれは東病院ではまったく日常的な風景であった。
 そんな彼の作った本書を、2015年発刊の『腹腔鏡下S状結腸切除術徹底レクチャー』と合わせて通読した。なんと彼はまだ同じように走り続けていた。手技研究会である伊藤塾でhot discussionを継続させ、しかも完全にシステム化させていることが私を驚かせた。言わずもがなではあるが、手術の手技でこれが完成形というものはありえない。患者のメリットを追求する方向への進化が常に要望されている。本書を真剣に吟味した有能な若い読者の中の“あなた”に本書内容をブレークスルーする栄光を期待したい。本書にはそれをさせる力が込められていると思う。

2018年 春
青森県立中央病院
小野 正人