遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)診療の手引き2017年版

HBOC待望の診療指針!最新エビデンスに基づいた対策を提案

編 集 厚生労働科学研究がん対策推進総合研究事業研究班
定 価 3,024円
(2,800円+税)
発行日 2017/10/25
ISBN 978-4-307-20372-2

B5判・164頁・図数:5枚・カラー図数:2枚

在庫状況 あり

がん診療・遺伝診療に携わる医療者必見、待望のHBOC診療指針! 遺伝学的検査および遺伝カウンセリングの方法、BRCA遺伝子変異保持者のマネジメント、血縁者へ対応等について、最新エビデンスをもとにわが国の医療制度において実施可能な対策を提案。乳癌・卵巣癌のみならず前立癌や膵癌をも網羅し、HBOC診療の標準化をめざした本邦初のガイドブック。
・本診療の手引き作成にあたって
・用語集
・遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)診療の流れ

I.総論
1.遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)の概要
2.家族歴聴取と家系図記載法

II.各論
II-1.遺伝子診断・遺伝カウンセリング領域
・遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)に関わる遺伝カウンセリング
CQ1 どのような患者にBRCAの遺伝学的検査情報を提供すべきか?
CQ2 BRCA遺伝学的検査前の遺伝カウンセリングで提供すべき情報は?
CQ3 BRCA遺伝学的検査前後の遺伝カウンセリングで必要な心理社会的支援は?
CQ4 BRCA以外の遺伝子もマルチ遺伝子パネル検査などを用いて検査を行うことは推奨されるか?
CQ5 BRCAなどの生殖細胞系列変異により、乳癌あるいは卵巣癌のリスクは高まるか?
CQ6 BRCA遺伝学的検査によって、変異陰性もしくはVUSの結果が得られた場合はどのように対応すべきか?
CQ7 遺伝学的検査を希望しないクライエントにはどのように対応すべきか?
CQ8 遺伝情報の扱いで注意すべき点は何か?
CQ9 遺伝学的検査の結果をどのように血縁者に伝えるべきか?
CQ10 発症前遺伝学的検査は誰を対象とすべきか?

II-2.乳癌領域
CQ11 BRCA変異を有する乳癌既発症者の対側のリスク低減乳房切除術(CRRM)は推奨されるか?
CQ12 術前にBRCA変異保持者であることがわかっている場合、乳房温存療法は推奨されるか?
CQ13 BRCA変異保持者の乳癌化学療法にプラチナ製剤は推奨できるか?
CQ14 30歳未満のBRCA変異保持者にマンモグラフィなどの被曝を伴う画像診断を行うことは推奨されるか?
CQ15 BRCA変異保持者にMRIは推奨されるか? もしMRIが実施できない環境ではどのようなサーベイランスが望ましいか?
CQ16-1 リスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)は未発症者の乳癌発症の予防に有用か?
CQ16-2 リスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)は既発症者の乳癌発症の予防に有用か?
CQ17 乳癌未発症のBRCA変異保持者に対し、両側リスク低減乳房切除術(BRRM)は推奨されるか?
CQ18 乳癌未発症者のBRCA変異保持者に対し、タモキシフェンによる化学予防は勧められるか?

II-3.婦人科癌領域
CQ19 BRCA変異保持者に対し、リスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)の実施は推奨されるか?
CQ20 BRCA変異保持者でRRSOが実施されない場合、経腟超音波検査および血清CA125測定を用いた卵巣癌サーベイランスは勧められるか?
CQ21 BRCA変異保持者の卵巣癌発症リスク低減のために低用量経口避妊薬(OC)あるいは低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)投与は推奨されるか?
CQ22 BRCA変異保持者に対し、リスク低減卵管摘出術(RRS)は推奨されるか?
CQ23 どのような卵巣癌患者に対してBRCA遺伝学的検査を行うべきか?
CQ24 卵巣癌例に対するPARP阻害薬の治療選択を行う際にコンパニオン診断としてBRCA遺伝学的検査を実施する場合の注意事項は?
CQ25 BRCA変異を有する女性に対して、ホルモン補充療法(HRT)は推奨されるか?

II-4.その他の領域
CQ26 男性の未発症BRCA変異保持者に対し、前立腺癌のサーベイランスは推奨されるか?
CQ27 男性のBRCA変異保持者に発生した前立腺癌に積極的な治療は勧められるか?
CQ28 BRCA変異保持者における禁煙、食生活など生活習慣の改善に関するエビデンスはあるか?
コラム1 BRCA変異保持者における卵巣癌のリスク要因について
コラム2 男性乳癌の臨床的特徴と対策
コラム3 BRCA変異保持者に発症する膵癌とその対策

・お役立ちサイト一覧
・検索式一覧
・索引
 遺伝性乳癌卵巣癌症候群(hereditary breast and ovarian cancer syndrome:HBOC)は、その存在自体がわが国では医療者および一般社会において、まだ十分に認識されていない病態である。日常診療の中で多くのHBOCに遭遇しているはずであるが、HBOCの存在に気がつかなければ医療者側からのアプローチは不可能であり、実際それでも通常のがん診療は実施可能である。しかし、がんの診療の際に、個々のがん治療だけではなく、さらに患者の将来を見据えたトータルなケアの機会を提供できれば本人にとってもその意義は大きい。
 今回、われわれの厚生労働科学研究班(がん対策総合推進総合研究事業)では、わが国のHBOC診療の基盤を整備すべく、全国登録システムの構築や一般社団法人日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構(JOHBOC)の設立などに取り組んだ。さらに、一般市民を対象としたHBOCの普及活動も行ってきた。その活動の一環として、現在のHBOCの最新の知見を総括して評価すること、わが国の医療制度の中で実施可能な対策を提案することを目的に本「診療の手引き」を作成した。また、本診療の手引きを作成するにあたり、既存の「乳癌診療ガイドライン2015年版」や「卵巣がん治療ガイドライン2015年版」との整合性には配慮したが、当初の原案でも大きな齟齬は認めなかった。
 今後、わが国でもBRCA遺伝学的検査の情報に基づいた、リスク低減手術やマネジメントが一般に普及すると思われる。さらにPARP阻害薬の適応を決めるためにBRCA遺伝学的検査が実施されるようになることも予想され、関係する診療科の一般医家にとってもHBOCへの対応は避けて通れない時代になる。医療者は生殖細胞系列の遺伝子検査の特徴を十分に理解したうえで、BRCA遺伝学的検査を担当することが望まれる。HBOCのみならず遺伝性腫瘍は生殖細胞系列の変異に起因するため、患者や家族のケアが単一臓器の診療科で完結できるわけではなく、複数の診療科や遺伝カウンセリング部門が連携してマネジメントを行う必要があることも大きな特徴である。
 さらに今後、遺伝学的検査はマルチ遺伝子パネル検査などより多くの遺伝子、より発症リスクの低い遺伝子にまで適応が広がることも想定される。その前に、われわれは変異が見つかった場合の具体的な臨床上の対策について、実際の臨床でこれらの情報をどのように活用するかを併行して考えていかなければならない。
 今回、多くの関係者の熱意や誠実な取り組みがなければ、本診療の手引きは完成できなかった。それはわが国のがんの遺伝医療そのものの歩みと類似しているように思われる。また、今回の診療の手引きでは多くのエビデンスが欧米を中心とした海外のデータである。これからはわが国の医療者がHBOC診療の主人公となって、それぞれの経験やデータを持ち寄って、より良いわが国の診療の手引きを改訂・作成されることを切に希望する。

2017年9月

「わが国における遺伝性乳癌卵巣癌の臨床遺伝学的特徴の解明と
 遺伝子情報を用いた生命予後の改善に関する研究」班
 研究代表者
 がん研有明病院遺伝子診療部 新井 正美