第2章 背景知識と推奨・解説 

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CQ

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   HD調製時に安全キャビネットの使用が推奨されるか

推 奨

強い推奨

要 約

安全キャビネットを使用することにより,HDの環境への汚染や曝露が減

少する。適切な安全キャビネットのクラスタイプを選択し,排気に注意

し,安全な取り扱い手順を順守する必要がある。

解説

HDを調製する際,安全キャビネット使用の有無が,環境およびヒトへの曝露にどう影

響するかモニタリングを行った研究結果が報告されている‌

1)〜10)

Nealらは,外部排気できない状況でHDを調製した研究では,調製準備室の200〜320

時間中の空気サンプルからフルオロウラシルが0.12〜82.26ng/L,シクロホスファミド
が370ng/L検出され,安全キャビネットを使用しない調製は,汚染を拡大する可能性が
示唆されることを報告している‌

1)

Andersonらは,クリーンベンチと安全キャビネットにおいてHD調製後の調製者の尿

中の変異原性を研究し,クリーンベンチ内で調製したすべての職員の尿中に変異原性が
検出され,一方,安全キャビネット使用群は,尿中に全く変異原性は検出されなかった
ことを報告している‌

2)

。また,Jakabらは,クリーンベンチを使用している病院の看護師

は,安全キャビネットを使用している病院の看護師より大幅に染色体異常などの遺伝毒
性が検出されたことを報告している‌

3)

。このような結果から,クリーンベンチではなく,

安全キャビネットの使用が必要である。

安全キャビネットの使用により,HDへの曝露が減少したことが複数報告されている。

McDiarmidらは,安全キャビネット内で,適切な無菌技術およびHDの安全な取り扱い
推奨手順を実施することにより,作業室環境へのフルオロウラシルの分散が低下したこ
とを報告している

4)

。McDevittらは,安全キャビネット外の空気中のサンプルからシク

ロホスファミド水和物が検出されなかったことを報告している‌

5)

。Sugiuraらは,安全キ

ャビネットを使用し,安全な取り扱いを行った調製者の尿中にシクロホスファミド水和
物が検出されなかったことを報告している‌

6)

一方,Pethranらは,安全キャビネットの使用にもかかわらず,HDの汚染を検出した

ことを報告している

7)

。Sessinkらは,安全キャビネット内でシクロホスファミド水和物,

フルオロウラシル,メトトレキサートを調製した際,安全キャビネット内からすべての
薬剤の汚染が検出され,また,安全キャビネット前の床からはフルオロウラシルが検出
され,調製者の尿中からシクロホスファミド水和物が検出されたことを報告している‌

8)

以上より,安全キャビネットの使用のみでは曝露を防止できず,また,適切な無菌技術
およびHDの安全な取り扱い手順を実施できない場合,汚染が拡がる可能性がある。

近藤らは,室内排気型であるクラスⅡタイプA1の安全キャビネットを適切に使用し

なかったために公務災害を認定されたことを報告している。この事例では,安全キャビ
ネットの排気が当たる付近に室内空調の排気口があり,その真下で作業していた調製者
が,調製薬剤の約50%を占めるシタラビンによって集中的に曝露した。その結果,シタ