第2章 背景知識と推奨・解説 

31

剤師の視点から調製場面における危険物質の封じ込めが強調されている点で,それぞれ
の特徴がある。

日本では現在,危険物質の封じ込めに必要な機械・器具が必ずしも使用できない状

況,すなわちエンジニアリングコントロール(engineering‌controls)が十分に行えてい
ない場合が多く,その次に優先度の高い,作業実践を含む組織管理的コントロール(ad-
ministrative‌controls‌including‌work‌practice)を徹底することは極めて重要になる。そ
れは,仮に必要な機械・器具を使用できる場合であっても同様である。ONSは,OSHA
の作業実践を含む組織管理的コントロールを,組織管理的コントロール(administrative‌
controls)および作業実践のコントロール(work‌practice‌controls)の2つの階層に分け
て具体的に説明している。そのため,本ガイドラインではその点が強調されたONSの
ヒエラルキーコントロールに準じ,説明する。なお,ONSに示された各階層の英語表
記は,本委員会で検討し意訳した。
1)危険物質の除去(elimination of the hazard)

最も効果が高い方法であり,毒性のない,あるいは少ない薬剤に変更すること

2)3)

意味するが,がん薬物療法においては,危険物質の除去や置換は現実的な選択肢ではな
い‌

2)3)

2)機械・器具によるコントロール(engineering controls)

発生源で有害性を消失させるか,職員を有害物から隔離することで曝露を減らす方法

である。具体的には,有害物質を封じ込める,または適切な換気を行うよう設計されて
いる機械・器具,すなわち安全キャビネット,アイソレーター,閉鎖式薬物移送システ
ム(closed‌system‌drug‌transfer‌devices:CSTD)を使用することを指す‌

2)

。ただし,安

全キャビネットはキャビネット内での汚染発生を防止するものではなく,その有効性は
使用する調製者の適切な技術に委ねられること‌

4)

,CSTDは安全キャビネットの代用に

はできないこと‌

4)5)

,安全キャビネットもCSTDの代用にはならないことに留意する必

要がある。
3)組織管理的コントロール(administrative controls)

HDの曝露予防のための安全プログラムの根幹をなすものであり,指針‌

2)

,手順‌

2)3)

スケジューリング業務‌

2)3)

,職員の教育および訓練‌

2)3)

,能力の評価‌

2)3)

を含む。各組織は,

HDの調製,運搬・保管,投与,廃棄,投与中・投与後の患者の排泄物・体液/排泄物
の取り扱い,HDがこぼれた(スピル)時の安全な取り扱いに関する指針

2)

および手順

2)3)

を設定する必要がある‌

2)3)

。また,HDを取り扱う職員は,取り扱う程度にかかわらず,

上記の指針・手順について教育・訓練を受ける必要がある。
4)作業実践のコントロール(work practice controls)

前述の各コントロールに従い,適切に業務を実施することである。HDの調製,運搬・

保管,投与,廃棄,投与中・投与後の患者の排泄物・体液/リネン類の取り扱いに関わ
るあらゆる日常業務の際,HD汚染の発生を最小限にするだけでなく,これらの日常業
務やHD容器の破損,こぼれ(スピル)が起きた際に発生する不注意な汚染を可能な限
り封じ込めることを含む‌

2)

。各組織においては,調製や投与など前述の職員のHD取り

扱いの場面を直接観察することが必要である‌

2)