な構造である
2)
。その臨床経過によって,前病変なく発生する原発性膠芽腫(primary glio-
blastoma)とgradeⅡやⅢの神経膠腫から悪性転化する形で膠芽腫と診断される続発性膠
芽腫(secondary glioblastoma)に区別され,前者はやや高齢者に多い傾向がある
2)
。病理
形態学的に両者の鑑別は困難であるが,遺伝子異常のパターンをみるとかなり明確な違い
があり,特にクエン酸回路に関与する酵素であるisocitrate dehydrogenase 1/2(IDH1/2)
をコードするIDH1/2遺伝子の変異は原発性膠芽腫では稀で,続発性膠芽腫の多くでみら
れることが近年明らかになっている
3,4)
。
膠芽腫は標準治療が可能な患者においてさえ,生存期間中央値が14.6カ月であり,ほぼ
治癒不能な疾患である
1)
。長い間,術後放射線治療が生存期間を有意に延長させる唯一の
治療方法であり,化学療法は生存期間延長に寄与しない,あるいはわずかに延長させるだ
けであるとされてきた
5)
。しかし2005年に発表されたランダム化比較試験において,テモ
ゾロミド(temozolomide)の放射線治療との併用とその後の維持療法の有効性が認めら
れ,テモゾロミド化学療法が広く行われるようになった
6)
。
2
Report of Brain Tumor Registry of Japan(2001—2004)によれば,膠芽腫の5年生存割
合は10%程度である
1)
。Curranらは,米国Radiation Therapy Oncology Group(RTOG)
の臨床試験に登録された1578例の悪性神経膠腫の背景因子と治療因子をrecursive parti-
tioning analysis(RPA)によって分析した。予後に影響する因子として,組織型(grade),
年齢,手術摘出度(亜全摘vs部分摘出),術前の全身状態(Karnofsky performance status:
KPS, mental status, symptomatic time),照射線量,術後の全身状態を挙げている
7)
。RTOG
はさらに膠芽腫に絞って症例を追跡し,1,672例について解析した結果を2011年に発表し
た
8)
。この解析ではoriginalのRPAクラスⅤとⅥを新しいクラスⅤにまとめて単純化した
結果,①年齢,②術前の全身状態(KPS),③手術摘出度,④術後の全身状態,の4項目の
みでの分類となっている(
1
)。RPAクラスⅢ,Ⅳ,Ⅴの各群における生存期間中央値
は,それぞれ17.1カ月,11.2カ月,7.5カ月であり,各群間で生存期間は統計学的有意差
がある
8)
。
近年は腫瘍の遺伝子解析による予後因子に関する報告も多く,その代表的なものとして
はDNA修復酵素O
6
—methylguanine—DNA methyltransferase(MGMT)をコードする
MGMT遺伝子のプロモーター領域メチル化と予後との相関が挙げられる。MGMTは
DNAアルキル化薬(ニトロソウレア系薬剤,DNAメチル化薬)によるDNA修飾を修復
する酵素であるが,その遺伝子のプロモーター領域にCpG—islandがあり,ここがメチル
化されるとタンパク発現が抑制される。Estellerらはカルムスチン(carmustine:BCNU)
の治療を受けた神経膠腫患者において腫瘍DNAを解析し,MGMT遺伝子プロモーター領
域のメチル化が化学療法後の腫瘍の縮小と,全生存期間および無増悪生存期間の延長に相
関していることを報告し,MGMT遺伝子プロモーター領域のメチル化が他の影響を受け
ない独立した予後因子であり,かつ年齢や一般状態(performance status:PS)よりも強
い予後因子であることを報告した
9)
。現在,膠芽腫治療において広く使用されているテモ
膠芽腫(glioblastoma)に罹患している個々の成人症例において,適切な治療方針を検
討するうえで必要となる重要な臨床事項を臨床的疑問(clinical question:CQ)として提
示し,現時点でのエビデンスに基づく推奨事項を述べる。
膠芽腫に罹患した成人患者。
脳腫瘍診療に従事する医師。
1
神経膠腫は神経細胞の支持組織であるグリア細胞から発生すると考えられている原発性
脳腫瘍であり,神経膠腫の内訳としては星細胞腫が神経膠腫の約80%を占める
1)
。
WHO分類においては,原発性脳腫瘍はその病理組織学的な悪性度と予後の組合せに
よって良い方から悪い方へgradeⅠ~gradeⅣに細分類されるが,膠芽腫はgradeⅣの星細
胞腫に相当する。膠芽腫は,1931年にPenfieldによって命名された。GradeⅠおよびⅡの
星細胞腫はあわせて分化型星細胞腫と呼ばれるのに対し,歴史的にはgradeⅢ(退形成性
星細胞腫)およびⅣ(膠芽腫)をあわせて悪性神経膠腫(malignant glioma)と呼ばれる
こともある。過去の多くの臨床研究においてこのgradeⅣ(膠芽腫)およびⅢ(退形成性
星細胞腫),退形成性乏突起膠腫や退形成性乏突起星細胞腫が悪性神経膠腫(malignant
glioma)という用語のもとに同時に扱われている
2)
。
膠芽腫単独では頭蓋内腫瘍の約10%を占め,多くは成人に発生する。年代別では50~60
歳に多く発生し,やや男性に多い。好発部位は大脳半球で,前頭葉に最も発生しやすい。
脳実質への強い浸潤性格を有し,脳梁を介して反対側の大脳白質への進展もある。組織学
的には,細胞密度が高く,円形,紡錘形などさまざまな形態を示す細胞がみられる。腫瘍
細胞の核には,クロマチンの増量,大小不同,多核,巨核があり,核分裂像も多数認めら
れる。大小の壊死像があり,壊死巣周囲の核の偽柵状配列(pseudopalisading)は特徴的
総 論
1
本ガイドラインの目的
2
対象患者
3
利用対象者
4
成人膠芽腫の概括
9
総論
1
章
成人膠芽腫