私は,慶應義塾大学でのフレッシュマンを終える
と,外科手術執刀可能な立場で東京都下の田無病院
に出向しました。当時,外科部長の古谷健二先生か
らいただいたお言葉で,30年経った今でも耳にや
きついて離れません。
 要するにすべての医療行為に対して,論理的な意
味づけがあるものを採用しろということです。単に,
有名な先生が行っていたから行うということは許容
されません。私の手術手技を採用する場合も,

「なぜ」

という問いかけをもって是非採用してください。意
味づけをすることにより,初めて技術の改良も可能
となります。意味づけは人により異なることもあり,
結果として間違っていることもあるかもしれません
が,

「理屈」を考えない外科医に,手術の上達は望め

ません。
「理屈」は小さな事象にもすべて必要です。先ほど

 手術はチーム活動です。外科医,麻酔科医,看護
師,臨床工学技士などの多職種で作り上げていく作
品です。患者への不利益は,手術の場合ヒューマン
エラーによることがほとんどです。完璧な人間はい
ないことを自覚し,謙虚な態度で他のスタッフに接
することにより,自由に手術中に提案,質問をして

「屁理屈でも理屈」以外にも多くの言葉を先輩から
いただいたり,それぞれ折りにつけ思い出し日常診
療の糧としている言葉があります。

「練習ハ不可能ヲ可能ニス」

 私の出身大学である慶應義塾大学の塾長を努めら

の古谷先生は,私が初めて手術室に入ったとき,術
前の手洗いは右手を先に洗うか左手を先に洗うかを
問われました。私は,どちらとも答えられませんで
した。理屈を思いつかなかったのです。古谷先生は

「右手から洗え。」とおっしゃり,理屈は「右ききの人

間は,右手をよく使うので右手をよりきれいにして
おく必要がある。不自由な左手でまず熱心に右手を
洗う必要がある。」とのことでした。
 どちらでもいいことかもしれませんが,すべての
行為に理屈をつけることにより,患者の命に関わる
ような重要な医療行為を「理屈」による確信をもって
行えるようになります。ちなみに,今,私に同じ問
いが来たら「右手を用いて左手をよく洗え。」となり
ます。理屈は「術者は,右手で道具類を持つ。道具
で傷つき手袋が破れる可能性の高いのは左手だか
ら。」となり意見は異なります。

もらう環境が形成されます。これによりヒューマン
エラーを未然に防ぐことができ,ひいてはzero 
mortalityにつながります。
 謙虚さは学びにも必要です。後輩であっても学ぶ
ところがあれば,お願いして教えてもらいましょう。
人の数だけ知恵があります。

れ,今上天皇の教育責任者となられ,慶應義塾體育
會(体育会)の発展にも力を尽くした小泉信三氏のお
言葉です。慶應義塾大学のキャンパス内にこの言葉
の碑があります。学生時代から多くの先輩からこの
言葉は聞いていました。
 手術に関しては,一例一例を大切にし,多くの患

屁理屈でも理屈

1.4

謙虚であれ

1.5

言い聞かせている言葉

1.6

7

1.4

 屁理屈でも理屈 / 

1.5

 謙虚であれ / 

1.6

 言い聞かせている言葉

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