CQ 2-4
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Ⅰ
乳癌HER2病理診断ガイドライン
◆解説
ASCO/CAPガイドラインの判定方法には変遷がみられるため,注意が必要で
ある。IHC法でのスコア3+の判定基準に関して,米国食品医薬品局(FDA)承
認時の基準では浸潤部の癌細胞の10%以上が強陽性であることとされていたが,
2007年版のASCO/CAPガイドラインでは30%を超える浸潤部の腫瘍細胞が強陽
性の場合に3+とするとしていた
1)
。また,FISH法の場合のFDA承認時の基準
は,浸潤癌細胞における平均17番染色体セントロメアコピー数に対する平均
HER2遺伝子コピー数の比(HER2/CEP17比,もしくはHER2/CEN17比)が
2.0以上を増幅ありとしていたが, ASCO/CAPガイドライン2007年版では>2.2
を増幅ありとした。ただし,IHC法での3+の判定基準の10%以上を>30%への
変更,FISH比のカットオフ値,2.0から2.2への変更に関する客観的根拠は示さ
れていなかった。ASCO/CAPガイドライン2007年版ではIHC法,FISH法の判
定各々にequivocalという概念を取り入れ,HER2陽性の判定により慎重な姿勢
が示されていた。IHC法では,癌細胞の>10%以上に全周性の弱~中等度の膜染
色性,もしくは>10%かつ30%以下の全周性の強い膜染色性の場合はスコア2+
(equivocal)と判定され,FISH法で確認することが奨められた。またFISH法で
HER2/CEP17比が1.8~2.2の間の場合もequivocalと判定され,計測細胞数を増
やしての測定やFISH法での再検,これらでもなおequivocalのときはIHC法を
行うことが奨められていた。結果として,偽陽性・偽陰性症例の頻度が減少を示
した報告が複数なされ
2, 3)
,ASCO/CAPガイドライン2013年版の改訂に至って
いる
4)
。この6年でHER2検査精度管理への周知が浸透したことを受け,今回の
改訂では,患者受益の点を考慮し,偽陰性症例のすくい上げに主眼が置かれてい
る。
ISH法
陽性
ISH法
陰性
ISH法
equivocal
リフレックステスト
**
(デュアルプローブISH法またはIHC法を用いて同じ検体で),または新たな検査(IHCまたは
ISH法を用いて可能なら新たな検体で)を実施しなければならない。
*
均一および近接する浸潤細胞集団
**
病理医が主治医の判断を得ることなく行うテスト
シングルプローブによるISH法(浸潤部)
HER2遺伝子コピー数の平均が
1細胞
*
あたり≧6.0
HER2遺伝子コピー数の平均が
1細胞
*
あたり≧4.0~<6.0
HER2遺伝子コピー数の平均が
1細胞あたり<4.0
図3
HER2 Single probe ISH法(CISH法)の判定フローチャート
(乳がんHER2検査病理部会:HER2検査ガイド 乳がん編[第四版],p2,2014)