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甲状腺

各論

各 論

A.亜急性甲状腺炎

(subacute thyroiditis)

【疾患概念】

若年〜中年女性に多く,ウイルス感染が原因と考えられている肉芽腫性甲状腺炎である。

【診断のポイント】

活動性炎症期ではコロイドを含む異物型多核巨細胞および類上皮細胞の出現を伴う肉芽腫
性炎症像がみられる。

治癒期では線維芽細胞が出現する。

臨床情報と併せて細胞所見を判断することが重要である。

【臨床像】

甲状腺が硬く有痛性に腫大する炎症性疾患である。外来受診の全甲状腺疾患患者の1〜5%

を占め,有痛性甲状腺疾患のなかでは最も頻度が高い。40〜50歳の女性に好発し,子供や高
齢者では稀である。病因に関してはウイルス感染が有力視されているが,原因ウイルスは同定
されておらず依然不明のままである。疼痛や腫大は数週間かけて改善していく。有効な加療が
行われないと1カ月以上疼痛が遷延化することも稀ではない。炎症による一過性の破壊性甲状
腺中毒症状(動悸,息切れ,体重減少など)は半数以上で認められる。検査所見ではCRP高値,
FT

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高値,TSH低値,超音波では疼痛部に一致した低エコー域がみられる。最近では症状,

血液生化学所見,超音波像で臨床的に診断がなされ,細胞診が行われることは少ない。

【病理組織像】

多くの症例は臨床的に診断されるため,ほかの理由で切除した甲状腺にて偶然に組織診断さ

れることが多い。甲状腺は非対称的に腫大する。病変の強い部分では,境界不明瞭で,灰白色
から黄白色の腫瘍と間違えるような結節性病変を形成する。組織学的には類上皮細胞と多核巨
細胞が出現する肉芽腫性炎が特徴である。発病初期では,濾胞上皮やコロイドの消失を伴う濾
胞の崩壊と急性・慢性炎症細胞浸潤がみられる。炎症は濾胞部から間質に広がるようにみえる。
急性期は好中球が主体で,微小膿瘍がみられることもある。次第に肉芽腫性病変が形成され,
類上皮細胞,組織球,多核巨細胞,リンパ球,形質細胞などの炎症細胞がみられる。種々の程
度の線維化を伴う。

【細胞像】

採取される細胞量は様々であるが,一般的に採取細胞量は少ない。初期では好中球が目立ち,

病期が進むと組織球,リンパ球を主体とする炎症性背景内に,濾胞上皮細胞,多核巨細胞,類
上皮細胞などが混在してみられる(

図45

)。濾胞上皮はシート状あるいは濾胞状構造を示さず

孤立散在性に出現し,細胞質が不明瞭なため,その認識が難しい。多核巨細胞は大型で,細胞
質内に炎症細胞やコロイドを含むものがある(

図46

)。類上皮細胞は短紡錘形の核を有し,細

胞質は淡染性で,比較的広く,細胞境界は不明瞭である(

図47

)。合胞状にみえるものもある。

晩期では炎症細胞は少なく,線維化を反映する線維芽細胞がみられる(

図48

)。