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眼器

各論

各 論

A.炎症性疾患

(眼脂,結膜擦過物,角膜擦過物)

外眼部疾患の検体は,結膜炎の場合は眼脂または結膜擦過物,角膜炎の場合は角膜病巣擦過

物である。白血球や上皮細胞等の細胞の観察にはGiemsa染色(Diff-Quik染色)が適しており,
細菌,真菌等の微生物をターゲットにする場合はGram染色を選択する。観察のポイントは次
の3点である。
・白血球の判別

白血球の多寡と種類を判別する。好中球,リンパ球,好酸球の3種を区別することで炎症の

原因をおおよそ鑑別できる。
・微生物の検出

外眼部感染症の原因微生物の多くは光学顕微鏡で観察できる。細菌,真菌,クラミジア,ア

カントアメーバ等が対象になる。Gram染色では,形態とGram染色性から菌種の推定が可能
である。
・上皮細胞の形態変化

感染症,涙液分泌減少,ビタミンA欠乏等では,角結膜上皮細胞に様々な形態変化がみら

れる。上皮細胞の変化をみるには,擦過塗抹よりもインプレッション標本が優れている。その
理由は,細胞の破壊が少なく,小さな病変からも効率よく細胞を採取できるからである。

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感染性

a.細菌性結膜炎(bacterial conjunctivitis)

眼脂中の白血球は好中球が70〜80%以上を占める。細菌の観察は対物100倍で行う。細菌は

大きさ1〜2μm程度で,形態から球菌か桿菌かを区別する。Giemsa染色では細菌は全て紺色
に染まり,Gram染色ではGram陽性菌は紺,Gram陰性菌は赤に染まる。外眼部は常在細菌
がいるため,検出された菌がすなわち原因菌とは断定できない。好中球による貪食像があれば
その菌が原因菌と判断してよい。代表的な菌種の特徴を以下に記載する。

肺炎球菌:ランセット型のGram陽性双球菌で,周囲に莢膜による透明帯がある(

図9

)。

インフルエンザ菌:Gram陰性の小さな短桿菌で,両端がやや丸くダンベル状の形態を示
す(

図10

)。Giemsa染色では,Gram染色よりも細菌はひと回り小さく染まるので,イン

フルエンザ菌は見つけにくい。

淋菌:Gram陰性のそら豆形の双球菌で,凹面を内側にしてペアで存在する(

図11

)。

コリネバクテリウム:Gram陽性の大型桿菌で,片仮名の「ハ」やアルファベットの「w」
の形で並んで認められることが多い(

図12

)。眼表面の常在菌であるため,必ず好中球に

よる貪食像を確認する必要がある(

図12

)。

b.ウイルス性結膜炎(viral conjunctivitis)

眼脂中の白血球は,リンパ球が70〜80%以上を占める(

図13

)。原因となるウイルスによっ